テロ等準備罪の「中止未遂」および予備・未遂・既遂との関係について

 遅ればせながら、参議院法務委員会における本年6月1日の参考人質疑を拝見した。

 本エントリはこれに触発され、(1)同罪を任意に中止した場合取扱い、および、(2)同罪と対象犯罪の予備・未遂・既遂との関係につき、私見を明らかにしようとするものである。

 なお、後者については国会で議論があったと承知しているが、念のために記しておく。また、私は本法案およびその審議過程には他にも疑問があると考えるが、これらについては以下のエントリを参照されたい。

gk1024.hatenablog.com

 

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【本罪を任意に中止した場合の取扱】

 法案によれば、組織犯罪処罰法6条の2第1項本文ただし書は、以下のように規定する。

 ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。

 周知のように、中止未遂に関する刑法43条ただし書が予備罪に適用されるかは争いがある*1

 このような解釈は、(殺人予備罪のように)予備罪について(自首ではなく)情状による刑の任意的免除を認める犯罪類型においては不都合が小さい。必要的でないという憾みは残るが、免除の余地があるため、犯罪を既遂に至らしめないという刑事政策的目標は、一定程度達成されるからである。

 しかし、本罪では、自首について必要的減免が認められるものの、それ以外の場合については減免の余地がない。

 テロ等準備罪について自首以外の任意の中止が観念できるかは検討されねばならないが*2、もしこれが観念できるのであれば、刑事政策的観点から(すなわち、計画段階で任意に離脱しても減免を受けられないのであれば、未遂に至るまで関与して中止しようと行為者に考えさせることが妥当でないことから)、同罪にも刑法43条ただし書の適用を認めるべきである。

 強盗予備罪をめぐって、強盗の中止未遂で刑が免除されるべき場合は稀であること、刑が減軽されても強盗未遂罪の方が強盗予備罪よりも刑が重いこと(前者を減軽した場合、2年6月以上10年以下の懲役。後者は2年以下の懲役)から、不都合はないとする議論もある。

 もっとも、このような反論に対しては、まず予備罪の中止犯の問題一般について、免除される余地が(稀ではあれ)存在することを無視するものであるという再反論が可能であろう。

 また、テロ等準備罪は、対象犯罪のうち法定刑が相対的に重いもの(6条の2第1項1号。死刑・無期・長期10年を超える)の計画について5年以下、相対的に軽いもの(同2号。長期4~10年)について2年以下の懲役・禁錮を規定するため、「対象犯罪の中止未遂を必要的に減軽した場合に比べテロ等準備罪が軽いから不都合はない」との関係は成り立たない(長期4年の罪について中止未遂として減軽すれば2年以下の罪となり、テロ等準備罪と処断刑の範囲が同じである)。

 このため、テロ等準備罪には中止未遂に関する刑法43条ただし書の適用を認めるべきであり、法文上もこのことを明確にするべきであると考える。

 

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【予備罪との関係】

  本罪にいう計画をした者の行為が、同時に実体犯罪についての予備罪の構成要件に該当する場合があり得る(たとえば、組織的殺人が計画され準備行為が行われた場合、本罪のほか、組織的殺人予備罪(組織犯罪処罰法6条1項1号)の要件を充足する事態が生じうる)。

 この場合、両者は併合罪と解されるべきではなく、より犯行が進展した段階である各対象犯罪の予備罪に本罪が吸収されると解するべきである。

 

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【未遂罪・既遂罪との関係】

 本罪を犯した者が、さらに、対象犯罪に着手しあるいは対象犯罪を遂げた場合、本罪は、対象犯罪の未遂罪(あれば)・既遂罪に吸収されると解すべきである。

 米国におけるコンスピラシーは未遂罪・既遂罪に吸収されず、対象犯罪(米国法流には実体犯罪)が未遂・既遂に至ってもなお、コンスピラシーで処罰することもできるが(未遂・既遂と本罪がコンスピラシーが併存する)、このように解すべきでない。

 その理由として、以下を指摘できる。

 米国ではコンスピラシーにつき訴訟法上の様々な特則が認められるため(証拠法上の関連性が緩和される、伝聞法則が緩和される、等)、コンスピラシーを実体犯罪と別に訴追する(訴追者にとっての)「メリット」が存する。しかし、このような特則は本罪には認められないから(今般の改正が手続法上の手当てを行っていないため)、対象犯罪が未遂・既遂に至った後になお本罪で訴追すること*3を認めるべき手続法上の理由は存しない。

 また、米国におけるコンスピラシーは犯罪への関与者を処罰する機能を有するが、この機能は、わが国においては共謀共同正犯概念が担っている。このため、この機能を理由として本罪が対象犯罪の未遂・既遂と併存すべきだと解する必要性が存しない。

 さらに、本罪はその沿革に鑑みれば、(TOC条約が2つのオプションとして掲げた)参加罪型ではなく共謀罪型であって、当該組織の存在を理由に処罰する犯罪類型ではなく、処罰を早期化させる犯罪類型と考えられる。この観点からも、通常の早期化類型(未遂・予備)と同様に解すべきこととなる。

 罪数関係を条文に書き込むことは通常行われないから、上述したところが解釈に委ねられることも、直ちにおかしいとまでは言えない。もっとも、混乱も予想されるので、審議の過程で重ねて明確に確認されるべきである。

*1:学説の多くは適用を肯定し、判例はこれを否定する(最大判昭和29年1月20日刑集8巻1号41頁〔強盗予備事件につき「予備罪には中止未遂の観念を容れる余地のないもの」とした〕)。

*2:計画段階まで関与した上で、任意に組織犯罪集団から離脱した場合がこれに該たるであろうか。

*3:ただし、未遂結果・既遂結果の存在や因果関係につき立証上の不安があること等を理由とした一部起訴のために、本罪のみで起訴することは認められるであろう。

「国連特別報告者による書簡」に対する疑問と危惧

 組織犯罪処罰法案への賛否*1と別に、国連特別報告者による書簡とその扱われ方について研究者として疑問と危惧を抱くため、以下、簡単に記しておく。

 

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 各種報道がなされたように、当該書簡は、国連特別報告者に任ぜられたJoseph Cannataci教授(マルタ大学)が首相宛に送ったものであり、ここにそのオリジナルが掲載されている。

 仄聞するところでは当該書簡は人権理事会における議論の叩き台となるものであるが、「叩く」以前に公表されることが通例であるのか、適切であるのかは、私には判断が付かない(専門外)。

 もっとも、当該書簡の内容や報じられ方には違和感を覚える。

 

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 違和感の第一は、Cannataci教授が「自ら『日本のプライバシー権を巡る変遷を調査し、30年以上、追いかけてきた』と説明」したと報じられたことについてである(朝日新聞デジタル2017年5月26日)。

digital.asahi.com

 同教授を知るわけでないためこの間の報道に接する限りではあるが、同教授には日本法を日本語で(すなわち一次資料にあたって)調査研究するだけの語学力があるとは考えにくい。

 そのように考える理由は、(1)当該書簡が組織犯罪処罰法案について不完全と思われる英訳に基づいており、同法案そのものを検討したとは思われないこと、(2)近時の最高裁判決を正しく参照し得ておらず、一次資料にあたっていないのではないかと思われること、(3)マルタ大学のサイトにある業績リストを見る限り日本法の専門家ではなく欧州プライバシー法に関する専門家ではないかと思われることにある。

 「そもそも日本語ができる外国の研究者なんか少ないんだから、日本語できない日本法研究者がいるのは当然」と思う方のために敢えて付け加えれば、個人的な経験の限りでは、米国の日本法研究者は日本語堪能で一次資料に当然あたっており、また、面会した際に日本語で「古風な名前ですね」と私に述べた方すら存する*2

 翻って日本でも「比較法の対象国をどこどこに求めている」と研究者が述べる場合に、少なくとも(すなわち、会話や書くことに難があっても)当該国の言語を読めないと話にならないのであって、おそらく多くの法律学研究者は「日本語は読めないけど日本法を長く研究してきました」と言われても「すごいですね」とは思わないであろう。

 このように考えると、日本語が読めない人物が「日本のプライバシー権を巡る変遷を調査し、30年以上、追いかけてきた」と本当に述べたのであれば、その発言者の研究者としての資質・誠実さについて、控えめに言っても、疑問を持たざるを得ない。

 

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 先の業績リストを見る限り、標題に "Japan" あるいは "Asia" を含むものは存しない。私自身も内容をすべてチェックしたわけではないから、標題にこれらの文言がなくとも日本(あるいはアジア)を検討対象とした業績があり得ることは否定しない。

 もっとも、プライバシーの領域で日本が「日本の」と標題に付けないで検討対象とされるとは(残念ながら)考えにくい上、同教授の業績に "in Romania"、"in Europe and North America"、"in the UK"、"in Malta" 等と題したものが存することから、もし、日本について検討しているのであれば同様に "in Japan" と付されると推測される。

 このため、業績リストを一瞥したところからも、暫定的には(すなわち、「この業績で日本についてきちんと検討している」と指摘されれば、この項目は即座に撤回しなければならないが)、同教授が日本のプライバシーに関する専門家であるとは考えにくいこととなる。

 

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 あらゆる国家について当該国の言語に堪能でなければ言及してはならないと考えることは、理想的ではあるが、現実的でない。まして、国連人権委員会においてあらゆる言語に対応した報告者を用意することはまず不可能であろう。

 したがって、国連特別報告者が日本について調査報告する際に日本語能力を欠くこと自体が直ちに問題であるとまでは私も考えない。

 しかし、(他の分野はともかく)法律学において対象国の言語ができないことは一次資料にあたれないことを意味するから、研究者として誠実であろうとするなら、一次資料にあたっていない調査研究には限界があることを自覚せねばならない。

 日本法研究30年発言が本当になされたのなら、この自覚を欠いていると自認しているにほかならず、このような発言(者)が称揚されることには強い違和感を覚える(だからこそ、この発言が本当にあったかすら疑問を覚える部分もある)。

 

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 違和感の第二は、同書簡が前提とする事実認識に関する。

 当該書簡は、「受領した情報によれば」(Accoding to the information received)として、組織犯罪処罰法改正法案が以下のようなものであることを前提に議論している。 

"Article 6: 2(1) Two or more persons who plan, as part of activities of terrorist groups or other organised*3 criminal groups, the commission of criminal acts listed in the following sections by such groups, are subject to the punishment prescribed in each of those sections, if any of them have arranged funds or goods or carried out preliminary inspections of relevant locations pursuant to the plan or other preparatory acts for the purpose of committing the planned criminal acts. An organized criminal group means a group of persons whose common purpose is to carry out the crimes enumerated in Appendix 3. However, those who surrender prior to executing the crime will have a reduced or exemption from that sentence. "

 もっとも、このような英訳には疑問がある。これを敢えて直訳すれば、以下のようなこととなる。

6条の2第1項 テロリスト集団もしくはその他の組織犯罪集団の活動の一部として、以下の各号に掲げられた犯罪行為をそのような集団によって遂行する旨の計画をした2名もしくはそれ以上の者は、これらの者のいずれかが計画に従って計画された犯罪の遂行の目的で資金もしくは物品を用意しまたは関係する場所の下見その他準備行為をした場合、各号に規定された刑罰に服する。組織的犯罪集団とは、別表3に列挙された犯罪を行うための共通目的を有した人びとの集団を意味する。しかしながら、犯罪の遂行に先だって自首した者は、その刑を減軽されもしくは免除される。

  これに対し、法案は以下の通り。

(テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画)

第6条の2 次の各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団(団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第三に掲げる罪を実行することにあるものをいう。次項において同じ。)の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を2人以上で計画した者は、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。   

 一 別表第4に掲げる罪のうち、死刑又は無期若しくは長期10年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められているもの  5年以下の懲役又は禁錮  

 二 別表第4に掲げる罪のうち、長期4年以上10年以下の懲役又は禁錮の刑が定められているもの  2年以下の懲役又は禁錮  

2 〔略〕

  このように見比べると、法案と英訳では「組織的犯罪集団」の定義が異なっていることに気付く。法案では、「組織的犯罪集団」とは「団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第三に掲げる罪を実行することにあるものをいう」とされているが、英訳では、"An organized criminal group" とは、"a group of persons whose common purpose is to carry out the crimes enumerated in Appendix 3" (別表3に列挙された犯罪を行うための共通目的を有した人びとの集団)を意味するとされており、「その結合関係の基礎としての」との文言が落とされている。

 この文言が落とされた経緯・理由は不明だが、この文言を落としたことにより、「組織的犯罪集団」に該当する範囲は英訳において法案よりも拡張されている(共通目的を有していれば、その目的が「結合関係の基礎」となってなくともよいことになってしまう)。

 このように、当該書簡が前提とした事実認識には疑問がある。

 

*  *  *

 

 さらに、以下の点にも疑問がある。

 まず、法案において国家安全保障目的での監視を規律する規定が欠けることを論難する点についてである。

There seem to be no plans to establish a statutory independent body in order to pre-authorise the carrying out of surveillance for national security purposes. This suggests that the establishment of such vital checks remains at the discretion of the specific agencies carrying out the operations. 

 曰く、国家安全保障目的での監視を規律する第三者組織を欠くため、監視活動が関係機関の裁量に委ねられてしまっているというのである。

 法案から離れていえば、この指摘自体はもっともであって、この種の監視活動の法的規律は喫緊の課題である。

 もっとも、組織犯罪処罰法改正によるテロ等準備罪の創設は新たな犯罪類型を設けるものであるから、ことがらは犯罪捜査にかかわるものであって、国家安全保障での監視とは無関係である(前者は犯罪の嫌疑があって初めて行われるのに対し、後者は犯罪の嫌疑を前提としない)。

 両者を区別せずに論じているのは、プライバシーに関する欧米の議論に引っ張られすぎているように思われ*4、日本の議論としては唐突な印象を免れない。

 

*  *  *

 

 さらに、GPSを用いた監視捜査に関する以下の言及にも疑問がある。

A sub-set of these concerns is the quality of judicial oversight and review when police request surveillance measures in order to carry out observations such as GPS detection or monitoring of activities on electronic devices. 

  曰く、GPSのような電子機器を用いた捜査活動に対し、日本の裁判所が適切に司法的抑制を働かせるのか疑問である、というのである。この指摘も、日本の状況を精確に理解していないのではないかと疑わせる。

 周知のように、ごく一部の例外を除いて、日本でのGPS捜査は、令状によらずに任意処分として行われてきた。このため、GPSについての令状審査はそもそも存しなかったのである(威張ることかどうかはともかく事実の問題として)。

 また、先日の最高裁大法廷判決により、新たな立法がなされない限りGPSを用いた捜査が日本で行われる法的な余地はほぼ*5存しないこととなった。

 もちろん、(1)今後立法的な手当てがなされた際に日本の裁判所がきちんと司法的抑制を働かせるかを問題としている、あるいは、(2)検証許可状を得てGPS捜査を行おうとする場合に日本の裁判所がきちんと司法的抑制を働かせるかを問題としていると善解する余地もあるが、それにしてはずいぶん素朴な書きぶりだという印象は拭えず、日本の状況に対する理解の精密さを疑わせる。

 

*  *  *

 

 このように、組織犯罪処罰法改正法案への賛否と別に、当該書簡の内容には様々な疑問を持たざるを得ない。

 同法案の審議はまさに政治過程にあるから、内容に疑問があってもなお同書簡の存在を利用しようとする戦略があることも承知している。

 しかし、そのような戦略は、内容の当否によって議論するという基本的な作法によらないことを指摘せざるを得ない。私はこのような戦略によってデモクラシーが劣化させられることを危惧する。

 「すべては党派的主張のため」、「敵の敵は味方」という言論作法が根付くなら、日本の言論空間の健全さは失われてしまう。言論空間の健全さは熟議による国家統制の基礎をなすものであるから、言論の作法は軽視されるべきものではなかろう。

 

*  *  *

 

 同書簡の成立過程とその内容について疑問を示したが、当該書簡に対する政府の対応にも問題があると考えている。言論作法の観点から、政府は正面から対応すべきであると思っていることも付記しておく。

 

 

【追記:2017年8月25日】

 外務省が2017年8月21日付けで国連人権高等弁務官事務所に対し「カンナタチ国連人権理事会の『プライバシーの権利』特別報告者の指摘に対する回答」を提出し、同22日付けで外務省ウェブサイトにおいて公開された。本エントリに関係するものとして、以下にリンクを追記する。

 なお、同サイトでは英文のもの、和文のものが公開されており、それぞれの末尾に、英文・和文で改正後の組織犯罪処罰法における関連条文が掲載されている。

国連人権理事会「プライバシーの権利」特別報告者の指摘に対する回答 | 外務省

*1:なお、同法案への私の立場については、さしあたりはひとつ前のエントリを、詳しくは当該エントリで言及した一連の拙稿を参照されたい。

*2:すなわち、日本語が読めるというレベルを遙かに超え、「源太郎」が「古風だ」と判断できるほど日本文化を知っているのである。

*3:第2文では organized と綴られているが、原文ママ。

*4:たとえば米国では、911後に両者の区別が急速に失われ、FBIは既に生じた犯罪を捜査するreactiveな組織から、未だ生じていないテロを発見し抑止するproactiveな組織に、その性格を変更しているとされる。そこでは、犯罪捜査に関する法的規律から解き放たれた監視をいかに規律すべきかが問題とされている。

*5:歯切れが悪いのは、大法廷判決がごく例外的に検証許可状を得て行う可能性を認めているとも読めるため。

組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案の衆議院通過を受けて

Ⅰ はじめに 

 テロ等準備罪(テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画罪)を創設する組織犯罪処罰法改正案(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案、193回国会閣法64号)が衆議院を通過しました。このエントリは、これを受けて、衆議院の議論で積み残されたと思われること(=参議院で議論されるべきこと)を、刑事法研究者としての視点から整理しようとするものです。

 なお、同法案は国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(英文名称は、United Nations Convention against Transnational Organized Crime。以下、「TOC条約」と記す)を受けて国内法の整備のためとして上程されているものですが、同条約の解釈には限定的にしか言及しません。このことは、私が国際法・国際刑事法・国際政治学等の専門家ではないためであり、TOC条約との関係が問題とならないことを意味しません。

 なお、私は現在在外研究中のため、日本国内での報道をフォローしきれておりません。この点はご海容頂ければと思います。

 

Ⅱ TOC条約と政府案

 

一 TOC条約

 ここでは前述の理由から、条約解釈そのものは行いません(TOC条約の解釈については、たとえば、伊東研祐教授・古谷修一教授による各論稿*1のほか、近時のものとして、髙山佳奈子教授による一連の論稿・発言を参照されるとよいと思います)。

  とはいえ、まずは、私が有している疑問を述べるに必要な限りで、TOC条約の文言を振り返っておきましょう。

 テロ等準備罪(あるいは旧法案における共謀罪)を創設しようとする議論のきっかけとなったのは、TOC条約5条の以下のような規定です(外務省訳)。

第5条 組織的な犯罪集団への参加の犯罪化

1項 締約国は、故意に行われた次の行為を犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。

 (a) 次の一方又は双方の行為(犯罪行為の未遂又は既遂に係る犯罪とは別個の犯罪とする。)

  (i) 金銭的利益その他の物質的利益を得ることに直接又は間接に関連する目的のため重大な犯罪を行うことを1又は2以上の者と合意することであって、国内法上求められるときは、その合意の参加者の2人による当該合意の内容を推進するための行為を伴い又は組織的な犯罪集団が関与するもの

  (ii) 組織的な犯罪集団の目的及び一般的な犯罪活動又は特定の犯罪を行う意図を認識しながら、次の活動に積極的に参加する個人の行為

   a 組織的な犯罪集団の犯罪活動

   b 組織的な犯罪集団のその他の活動(当該個人が、自己の参加が当該犯罪集団の目的の達成に寄与することを知っているときに限る。)

 (b) 組織的な犯罪集団が関与する重大な犯罪の実行を組織し、指示し、ほう助し、教唆し若しくは援助し又はこれについて相談すること。

2項 1項に規定する認識、故意、目的又は合意は、客観的な事実の状況により推認することができる。

3項 〔略〕

  すなわち、同条約5条1項(a)は、重大な犯罪*2につき一定の合意をすること(5条1項(a)(i))、一定の組織に参加すること(同(ii))のいずれかもしくは双方を犯罪化するよう求めるているのです。

 日本は(i)のオプションを採用し、かつての法案における共謀罪あるいは今般の法案におけるテロ等準備罪を創設することで、国内法を整備しようとしています。

 

二 条約の解釈を巡る争い

 かつて、政府は、この条約の文言を文字通りに読んで、TOC条約が要求する義務を果たすためには、同条約5条1項(a)(i)が認めるもの(「国内法上求められるときは、その合意の参加者の2人による当該合意の内容を推進するための行為を伴い又は組織的な犯罪集団が関与するもの」)以外の限定を付すことはできないとしていました。

 すなわち、政府の説明によれば、条約は次のようなことを要求しているとされていたのです(前述のように5条1項(a)で(i)のオプションを採用した場合)。

  1. 一定の目的で行う重大犯罪に関する複数名での合意を犯罪としなければならない。
  2. その際、単に合意しただけでなく、「合意の内容を推進するための行為」が行われたことを要求することは許される。
  3. 「組織的な犯罪集団が関与するもの」に限定することは許される。
  4. これ以外の限定を加えた場合は、条約上の義務を果たしたことにならない。

 このような政府による条約の解釈に対しては、有力な異論もありました。反対説は、同条約34条1項や立法ガイドを手がかりに「そのように形式的に読むべきではない」と主張したのです。大ざっぱにまとめてしまえば、それらの見解は、「新たな立法を行わなくとも、上記1の義務は実質的にはすでに履行されており、現状で条約を批准できる」とするもの、あるいは、「上記4に反対し、同2、3以外の限定を加えることも条約上許される」とするものでした。

 いずれの解釈に私が賛成するかは割愛しますが*3、ここでは、このように条約解釈を巡る対立があったことを確認しておきます。

 

三 今般の政府案

 さて、上記の対立を確認した上で、今般の政府案についてです。今般の政府案は、「(テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画)」との小見出しのもと*4、以下のような規定を設けることとしています(以下は、提出時法案による)。

第6条の2 

 次の各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団(団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第3に掲げる罪を実行することにあるものをいう。次項において同じ。)の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を2人以上で計画した者は、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。   

 一 別表第4に掲げる罪のうち、死刑又は無期若しくは長期10年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められているもの  5年以下の懲役又は禁錮

 二 別表第4に掲げる罪のうち、長期4年以上10年以下の懲役又は禁錮の刑が定められているもの  2年以下の懲役又は禁錮  

2 前項各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団に不正権益を得させ、又はテロリズム集団その他の組織的犯罪集団の不正権益を維持し、若しくは拡大する目的で行われるものの遂行を2人以上で計画した者も、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、同項と同様とする。

 別表は長いので省略しますが、この法案のうち特に議論が集中している6条の2第1項は、次のような作りです(自首減軽の部分を除く)。

  1. 「次の各号に掲げる罪」(=「別表第4」に掲げられた罪)を、
  2. 「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団(団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第3に掲げる罪を実行することにあるもの……)の団体の活動として」、
  3. 「当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を2人以上で計画」し、
  4. 「その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき……計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたとき」に、処罰する。

 政府案の狙うところを整理するならば(すなわち、その「狙い」が実現されているかはいったん措けば)、単なる「一定の目的で行う重大犯罪に関する複数名での合意」ではなく、以下のような限定を加え、処罰範囲を絞り込もうとしている、ということになります。

  1. 対象犯罪を限定する。
  2. 主体を限定する。
  3. 「合意」では「計画」したことを処罰の対象とする。
  4. 準備行為を要求する。

 このうち、2、4は、(かつて政府が行ったように)TOC条約を形式的に解釈しても、条約上許されるでしょう(2は同条約5条1項(a)(i)後段がいう「組織的な犯罪集団が関与するもの」に、4は同前段がいう「当該合意内容の推進のための行為を伴う」に該当するため*5)。

 3はどうでしょうか。3の限定を付すことについて条約が明文で認めているわけではありませんが、(4について見たように)条約は「当該合意内容の推進のための行為を伴う」という要件を付加してよいとしていますから、「合意」の段階ではなく「計画」の段階ではじめて処罰できるとすることも許容するでしょうし、この解釈は5条1項(a)(i)の読み方としても「素直」と言えるでしょう。そうだとすると、3の要件を付加することとかつての政府のように条約を形式的に解釈することとは、(一定の実質的解釈を導入してはいるものの)矛盾するとまでは言えなそうです。

 1はどうでしょうか。対象犯罪を「組織的な犯罪集団によって行われることが現実的に想定されるものに限定した」と政府は説明している、というのが私の認識です*6

 しかし、(対象犯罪を限定する方向性それ自体の是非は別にして、)条約のどこに、このように対象犯罪を限定してよいと書いてあるのでしょうか。政府は形式的な条約解釈を撤回したのでしょうか。もし撤回したのであれば、なぜ、従来から言われてきたような、TOC条約による義務を履行するために新たな立法は不要とする見解や、より限定的な要件を付すべきだとする見解が否定されるのでしょうか。民進党の対案は条約上の義務との関係でどう評価されることとなるのでしょうか。もし条約が形式的に解釈されるべきだとの立場が維持されているのであれば、今般の法案を成立させても、条約上の義務を果たしたことにならないのではないでしょうか。

 どうも政府の条約解釈は密かにじわじわと変容しているようです。

 条約の解釈を変更することそれ自体は許されると考えますが(この件で「解釈を変えるな!」とデモをする人はいないでしょう)、同時に、従来の解釈が誤りだったのであれば誤りは誤りとして政府の責任において明確に正し、新たな理解に基づいた誠実な説明をすべきです。参議院においては、条約の読み方について、政府に正直で精密な説明が求められるのだろうと思います。

 

Ⅲ 処罰の早期化

 次に、刑事法研究者として、議論が不足していると考える点をさしあたり2点指摘しておきたいと思います。なお、以下は、かなり駆け足の議論になりますので、詳細は、拙稿「共謀罪あるいは『テロ等組織犯罪準備罪』について」慶應法学37号(2017年)151頁以下を参照して頂ければ幸甚です。

 

一 「テロ対策」としての有効性

 テロ等準備罪がテロ対策に有効であるとする議論があります。

 この議論に対しては、そもそもTOC条約が(マフィア等の)組織犯罪対策であってテロ対策のためのものではないとする反論も存しますが、ここではTOC条約の趣旨に関する議論から離れ、そもそも実体法の整備がテロ対策としてどの程度意味があるか、ということを考えてみましょう。

 さて、前掲拙稿には以下のようなことを書きました(162頁以下)。 

 共謀罪等は、実行の着手より早い段階を処罰するものであるから、米国におけるコンスピラシーと同様、処罰を早期化する……機能を有する。

 もっとも、米国では、現実にコンスピラシーが訴追されるのは、コンスピラターによって、なんらかの実質的ステップがなされた時点であるとされる。通常は、このステップがあって初めて、当該グループの存在に訴追者が気付き、刑事手続が開始されるのである。このため、コンスピラシー概念が実際に米国において担っている役割は、わが国における共謀共同正犯概念のそれと極めて近いと思われる。

 このような米国の経験を参考にする限り、重大な犯罪に早期に介入するという共謀罪等の機能は限定的なものになると予想される。このため、共謀罪等がテロの未然防止に役立つとする賛成論も、共謀罪等が過度な早期介入を招くとする反対論も、やや現実性を欠く。

 

 予備罪処罰の実態も、共謀罪等が早期介入に役立つか否かを推測する際に、一定程度有意義であろう。

 警察庁の統計によれば、2014年には、31件の殺人予備罪が認知され、同罪で33件29人が検挙されている。このことは、早期介入の成功を意味するのであろうか。

 そこで、試みに朝日新聞本紙全文記事データベース(「聞蔵Ⅱビジュアル」)により、「殺人予備」というキーワードに言及した同年の新聞記事(朝日新聞または朝日新聞デジタルに掲載されたもの)を検索したところ、11件の記事がヒットした。

 このうち3件はオウム真理教による一連の事件に関し長期間逃亡した後に逮捕・起訴された被告人らにかかるものであり、また、3件は、焼死した被害者の母親が殺人罪については不起訴処分とされ殺人予備罪で起訴された事件にかかるものである。さらに、2件はスナック店員を刺殺した被疑者が(スナック店員とは別人である)元妻も殺害するつもりであったと供述し元妻に対する殺人予備罪で検挙された事件にかかるもの、2件は折りたたみ式ナイフの刃渡りの計測を間違え銃刀法違反容疑で誤って逮捕された者が、父親を殺害するためにナイフを持っていたとして改めて殺人予備罪で逮捕(後に不起訴処分)された事件にかかるものである。

 このように、2014年に報道された事件について見る限り、殺人予備罪で検挙し得たのは、行為者自身や共犯者によると思われるなんらかの犯罪がなされた後なのである。

 断片的な報道から一足飛びに結論を導くことは控えなければならないが、それでも、これらの記事からは、殺人の予備行為を行ったのみの時点で検挙することは難しいという「実態」が浮かび上がってくる。そして、このことは、さらに早期の段階である共謀罪等処罰の困難さを示唆するものであろう。

  拙稿では、便宜上、米国におけるものを「コンスピラシー」、かつて日本で創設されようとしていたものを「共謀罪」、共謀罪および今般の法案におけるテロ等準備罪を一括して「共謀罪等」と呼んでいます(同稿執筆時点では、今般の法案は未だ上程されておらず、その内容や法文上付される罪名も不明であったため)。

 なお、引用部分で触れている「警察庁の統計」は、警察庁『平成26年の犯罪』(2016年)1頁を指しています。テロ対策としての有効性を考える際に殺人予備罪を持ち出すことの是非には異論もあろうかと思いますが、同書が殺人予備罪以外の予備罪については個別に項目を立てずそれぞれの罪の既遂・未遂と一括して集計していることから、同罪を取り上げました。

 

二 「不均衡」を超克できるか

 刑法(特別法も含めた広い意味での刑法)は、犯罪が既遂に至った時点で初めて処罰することを原則とし、未遂や予備といった、既遂に至らない時点での処罰は例外としています。

 このため、 多くの犯罪類型は、未遂を処罰する規定(殺人の203条に相当する規定)や予備を処罰する規定(殺人の201条に相当する規定)を有していません(言うまでもないことですが、これらの規定が欠けている多くの犯罪類型では、未遂や予備は処罰されません)。

 ところが、テロ等準備罪が成立すれば、未遂処罰規定や予備処罰規定を欠くにもかかわらず、それ以前の段階である「計画」を処罰することとなる犯罪類型が生じます(3月1日時点の報道に基づいてではありますが、同罪の対象となる罪のうち刑法典上のものにつき、未遂・予備処罰規定の有無を整理した表はこちら)。これらの犯罪類型では、未遂は処罰されないのに、あるいは、予備は処罰されないのに、それより時間的に前の段階である「計画」が処罰されることとなります。

 このように、テロ等準備罪は「どの時点から処罰するか」ということにつき、「不均衡」を生ぜしめるものです。

 この「不均衡」はどのように評価されるべきでしょうか。拙稿には次のように書きました(169頁)。

 

 もちろん、「不均衡」であることが直ちに問題だというわけではない。問題は、このような「不均衡」を超克する論理が存するか否か、である。

 米国法に倣えば、超克の一つの可能性は、「犯罪目的でのグループの存在は、直接予見される犯罪と、そうでない犯罪の双方に対する継続的な活動の中心を提供する」というテーゼを認めることにある。

 もっとも、この危険性を理由として最長で5年以下の懲役・禁錮といった重い刑罰を科すことを正当化するためには、当該グループの存在が有する危険性が一定以上高度であることや、目的とされる犯罪が一定以上重大なものであることが要求されよう。

 また、この危険性が処罰を基礎付ける程度のものとなったと評価し得るのは、一般に当該グループが現実に活動を開始した時点であって、当該グループを結成しようと合意した時点でそのような危険性が認められるのは例外的であろう。

 もし、このように考えるのであれば、合意そのものを犯罪化するためには、合意の時点で処罰に値する危険が例外的に認められるか否かが、立法に際し個別に審査されなければならない。この個別審査を経ずに一律にグループ結成の合意を犯罪化することは、立法の方法として乱暴であることは否定できないのである。

  私見は、この「不均衡」が直ちに許されないわけではないが、この「不均衡」を超克するためには合理的な理由が必要だ、というものであり、また、ある犯罪を行おうとする集団の存在が(個人が同じ犯罪を行おうとする場合と比べて)早い時点での介入を正当化するほど危険だといえる場合に「合理的な理由」があると評価できる、というものです。

 このような私見によれば、テロ等準備罪の国会審議に際しては、対象となる犯罪に関する組織の存在がこのような「合理的な理由」要件を充たすものであるか否か、個別に審査されなければなりません。

 しかし、瞥見の限りでは、衆議院の審議では「キノコ狩り」云々の議論はあっても、個々の対象犯罪を逐一精査する議論はなかったように思います。参議院の審議では、対象犯罪の選別が、ここで指摘した観点から(も)、精密に行われることを期待します。

 

Ⅳ まとめにかえて

 このエントリは「一筆書き」で書いたものですので、議論すべきものを網羅的に書き尽くすという性質のものではありません。この点を留意して頂ければ幸いです。

 在外研究中に911後のFBIによるテロ対策に関する諸文献を読んでいると、そこには実体法に関する議論がほとんどないことに気付かされます。

 実体法の議論がほぼない理由を、「米国には既に広範な処罰範囲を有するコンスピラシーが存するからだ」と考える余地もあります。

 しかし、米国でもコンスピラシーはしばしば犯罪が実行に移されてから発覚していること(前述。したがって、日本の共謀共同正犯と、その機能において大差ない)からすれば、むしろ、「テロ対策にはテロ対策のための情報を収集・分析・利用する手法と組織こそが必要だからだ」と考える方が正しいのでしょう。

 このため、テロ等準備罪がテロ対策になるという説明は、上手く腹に落ちません。「テロ等準備罪により国内法を手当てして条約を批准することにより情報がもらえるからテロ対策になる」なら言いたいことは理解はできますが(そして話は、どうしたら条約を批准できるかという条約解釈に戻るわけですが)、そうであるのなら、正直な説明をして欲しいと思われてなりません。

 また、テロ対策の「本命」が情報収集の手法と組織にあるとすれば、これを法律によって適切に統制するための仕組みが重要です(911後に適切な統制を欠いたまま米国の関係機関が暴走したのは、米国議会による報告書も認めるところです)。日本においてもいずれこの問題に正面から取り組むことが避けられないでしょうから、専門家の端くれとしては、安全と市民的自由の関係につきより思索を深めなければならないと強く感じています。

 

  *  *  *

 

 米国のコンスピラシーの概念等を紹介しかつての共謀罪創設法案を検討したものとして、拙著『刑事立法と刑事法学』(2010年、弘文堂)があります(第5章が該当箇所)。前掲・拙稿のほか、こちらもご参照頂けますと幸いです。 

刑事立法と刑事法学

刑事立法と刑事法学

 

 

*1:伊東研祐「国際組織犯罪と共謀罪」ジュリスト1321号(2006年)73頁以下、古谷修一「国際組織犯罪防止条約の特質と国内実施における問題」早稲田大学社会安全政策研究所紀要1巻(2009年)225頁以下参照。

*2:同条約2条(b)は、「重大な犯罪」とは、「長期4年以上の自由を剥奪する刑又はこれより重い刑を科することができる犯罪を構成する行為」であるとしています。

*3:かつて、刑法学会のワークショップで、出来の悪い条約は無視すればよい(大意)と口走って共謀罪に賛成する方、反対する方双方から怒られたことのみ告白しておきます。

*4:ちなみにこれは法文に正式に付されることとなる小見出しなので、同罪の名称は「テロリズム……の計画罪」あるいはその略称である「テロ等準備罪」とするのが正しいのでしょう。

*5:ただし、4については、アメリカ合衆国におけるコンスピラシーの要件としてのオーヴァート・アクト(顕示行為)と同法案の「準備行為」が本当に同じなのか(前者の方がよりゆるやかな概念なのではないか、また、条約が認める「当該合意の内容の推進のための行為」とはいかなるものか)という点を詰めて考える必要があります。

*6:法務大臣があれこれ言うので、実際のところ、限定の趣旨・基準に関する政府の説明がどのようなものか、今ひとつよく分からないのではありますが。