安廣文夫編著『裁判員裁判時代の刑事裁判』(2015年、成文堂)に、拙稿「共謀共同正犯に関する覚書」(433-448頁)が収録されました。
同書は、世話人の先生方によるあとがきにもあるように、安廣文夫先生古稀記念祝賀論文集としての性質を有するものですが、安廣先生ご自身も編集代表というかたちで参画しご論文も寄せられたものです。
大半の執筆者が実務家であるという同書の性格に鑑みて、拙稿では、共謀共同正犯の成立要件に関する実務家による近時の論稿のうち、網羅的かつ大部であるもの*1を取り上げ、そこで論じられていることと共謀共同正犯を肯定する見解との距離や異同を素描し、若干の私見を述べました。
同論文の末尾にも記しましたが、安廣先生に初めてお目にかかったのは、私がまだ大学院生の頃、東京都立大学大学院で先生が担当された演習においてでした。この演習は、大学院生が判例評釈を行い、安廣先生にご指導をいただくというものでした。
当時はまだまだ判例評釈のなんたるかも理解できておらず*2、当該事案からも当該判例の位置付けからも離れ、当該判例で問題となり得る抽象論の一部を延々と“楽しく”述べる、という報告をしてしまったことが思い出されます。
先生には、このような抽象論にも丁寧にお付き合い頂いた上で、それでは(少なくとも「それだけでは」)なぜ不十分か、他に考えるべきことはどのようなことがあるのか、繰り返しお教え頂きました。現在の私が、研究者として少しはましになっているとすれば、この経験が大きかったと言わなければなりません。
私自身は40代半ばになった今でも、実務と研究の距離感について迷うばかりでまったく頼りないのですが*3、研究、教育、後進の指導等々で、少しでも学恩をお返しできればと考えています。