『憲法学のゆくえ』に寄せて

宍戸常寿=曽我部真裕=山本龍彦『憲法学のゆくえ――諸法との対話で切り拓く新たな地平』がアマゾンに掲載されました。

憲法学のゆくえ 諸法との対話で切り拓く新たな地平

憲法学のゆくえ 諸法との対話で切り拓く新たな地平

 

 

このお三方はいずれも私と同世代といってよく*1、宍戸先生とは元同僚*2、山本先生とは現同僚です。また、このお二人を通じて知己を得た曽我部先生にも日頃からお世話になっています。

 

同書は、法律時報誌上で行われた同名の企画の書籍化で、私は初回のゲストとしてお招き頂きました。その他の回も含む全体像については、曽我部先生のブログをご覧下さい。

masahirosogabe.hatenablog.com

 

あるとき、宍戸・山本両先生と法律時報の上村編集長から、「情報交換をするから一席設けたい。曽我部先生もいらっしゃる」とお声がかかりました。経験上「こういうのは行くと仕事が増えるんだよな」とも思いましたが、曽我部先生には一度お目にかかりたいと思っていましたし、親しい両先生からのお声がけを断る/逃げるわけにもいかないので*3、飛んで火に入ってみました。席に案内されると既に皆さんがお揃いで、机上には企画書がありました。「暑気払い」等の名目で招かれしばらくしてお仕事を頂くことはこれまでもありましたが、「一席→ご依頼」のスピードがこのときを上回ることは理論上ないでしょう*4

 

ともあれ、企画書の内容は実に興味深く、有意義なものでした。唯一の問題は、このような難しい企画に自分が参加しなければならないこと、しかも初回であってどのような準備をしたらよいのか想像もつかないこと、でした。企画についてどう思うか問われ、「非常に有意義だと思うが自分が出るのは辛い」「誰か他の人が出ているところは是非見てみたい」旨を答えたように記憶しています。

 

私の基調報告はやや総花的になってしまい*5、反省すべきところも少なくないのですが、露払いの役割を少しでも果たせていれば幸いです。若い優秀な研究者に言及して頂いたことも感謝に堪えません。

 

基調報告では、刑事法学上、憲法学の知見が用いられる場面をいくつか取り上げ、議論の現状を素描しました*6。その「場面」とは、たとえば、名誉毀損罪と真実性の誤信、(立川事件のような)ビラ配布と建造物等侵入罪の成否、プライバシーと捜査法(GPSを用いた捜査とプライバシー)等です。また、わずかしか言及できませんでしたが、刑事立法と憲法(学)との関係も、この「場面」に関する重要なテーマのひとつでしょう*7。このような作業を通じ、刑事法学者として憲法学に求めること――たとえば、名誉毀損罪と真実性の誤信の問題に関して、保護されるべき表現の自由の範囲をクリアカットにすること(結果として虚偽であった、しかし相当な根拠に基づいている表現の、憲法学上の位置付け、等)が少しでも浮き彫りにできていれば、私の試みは一定の意味を持ったといえるでしょう(その評価は、読者に委ねられますが)。もし、ボールが憲法学の側へ届いているとすれば、返球を待ちたいところです。

 

最後にごく個人的なことを。前任校で研究者としての青春期*8をともに過ごした先生方――宍戸先生のほか、(同じ回にご一緒したわけではないですが)森肇志・伊藤正次両先生――と同じ企画/書籍で仕事をできたことは、本当に幸せなことです。専門を異にしますが、きら星のような先生方と近しくお付き合いし多くの刺激を受け、非才な私も少しは「まし」になったのではないかと思っています。また、われわれは着任後すぐに大学改革と司法改革の影響を受け、同業者による反応も含む様々なことに翻弄されました。それだけに、思い出も思い入れもある仲間とこうして一緒に仕事ができたことを嬉しく思っています。

 

9月20日発売予定とのことです。どうぞよしなに。

 

【2016年9月5日・追記】

日本評論社のサイトに目次が掲載されました。

www.nippyo.co.jp

*1:正確には私の方が少し年上なので、同世代と言ってしまうのは図々しいのかもしれません。

*2:2000年10月に、東京都立大学法学部に同日に助教授として着任しました。もうずいぶん前のことになりました。

*3:こういう仕事のやり方については、留学中の現在、いろいろと考えるところもありますが、それはまた別の話。

*4:「ご依頼」の際には「一席」をと申し上げている訳ではありません。為念。

*5:私より後に登場されたゲストの方々は、いずれももっと上手く対応されていました。

*6:また、お三方がこれまで書かれたものの中で刑事法の領域に関するものを渉猟し、取り上げることを基本方針としました。

*7:立法学の課題が「よりよい立法」をいかにして行うかにあるとすれば、憲法学はいわば外埒であって、憲法学の知見のみで問題が解決されるものでないのではありますが。

*8:30代はきっとそうなんでしょう。