シンポジウム抄録:「刑事法研究者から見た海賊版サイト対策を巡る動き」(2/2)

「1/2」の続き。前半はこちら。

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【目次】

「1/2」のつづき

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Ⅲ DL犯罪化範囲見直し(承前)

四 補説――周辺行為処罰としてのDL犯罪?

1 周辺行為の処罰一般

  • 共犯的行為 自殺関与等、陰謀・共謀、せん動、盗品等関与罪 等
  • 早期化   未遂、予備、陰謀・共謀、せん動 等

・DL犯罪化については、特に、DL行為を禁圧すると著作権者の権利・利益が保護されることとなる機序について疑問があった(前述)。そこで、既存の犯罪類型と比較しつつ、この点をさらに検討。

・既存の犯罪類型でも、構成要件を拡張し、本来禁圧しようとしている行為の周辺にある行為を処罰しているものがある。

・これらは大別すると、(厳密な意味では共犯といえなくても)いわば共犯「的」な行為を処罰するもの(自殺関与等)と、処罰の時期を前倒しするもの(早期化類型。未遂、予備等)がある。

2 財産犯における周辺行為処罰

※著作権法119条違反の罪質・保護法益

  • 共犯的行為 盗品等関与罪
  • 早期化   未遂、予備(ただし、刑法典上の財産犯では強盗のみ)

・個人法益を教科書的に「生命/身体/自由/名誉/財産」と区分した場合、既存の犯罪類型のうち、財産犯において周辺行為を処罰する例を参照するのが便宜であろう。

・著作権法119条の保護法益や同条違反の罪質につき議論があることは承知している。

・ただ、前述のように保護法益を著作権者の経済的利益と見た場合には、刑法典上の財産犯に関する議論を参照すべきこととなろう。

3 周辺行為処罰とDL犯罪化

  • 財産犯にも周辺行為を処罰する類型あり
    →DL犯罪化も周辺行為の処罰であるというだけでは、ただちに不適切とまではいえない
  • では、DLにつき、周辺行為としての処罰が正当化されるか。
    • 共犯的行為構成での正当化 →困難
      • 追求権侵害や本犯助長犯的性格が認められるか疑問
        • 有体物と異なり被害客体の返還は問題とならない。
        • DL行為がUL行為を助長するか疑問。
          →DL行為の侵害性を盗品等関与罪とパラレルに説明することはできない
    • 早期化構成での正当化 →限定的に可能性あり?
      • 刑法典上の財産犯では予備を罰するのは強盗のみ
        • 強盗罪と同様の根拠で早期介入が正当化されるか。
          ※強盗罪の手段たる暴行・脅迫による生命・身体に対する侵害のおそれ
        • 被害の深刻さにより早期介入が正当化されるか。
          ※3億6000万円窃盗
          ※特別法等での形を変えた早期化(ピッキング用具所持、特殊詐欺用口座取得等)
          • DL犯罪化はピッキング用具所持と同様の意味で被害防止に有用?

・財産犯にも周辺行為を処罰する例があるように、DL犯罪化も(違法なUL行為という「本犯」の)周辺行為の処罰であるというだけでは、ただちに不適切とまではいえない。

・もっとも、財産犯における周辺行為の処罰とパラレルにみたばあい、ただちに適切とも言い切れない。

・まず、共犯的行為として構成し正当化することは困難に思われる。この検討に際しては盗品等関与罪との比較をしつつ検討することができよう。同罪の罪質・保護法益には議論があるが、追求権侵害や本犯助長犯的性格を指摘するのが通例である。

・DL犯罪化についていえば、(有体物を客体とする財産犯における)追求権侵害は問題とならないし(ひらたくいえば、盗品等が転々流通してどこへ行ったか分からなくなってしまい、所有者がさらに困るという事態は、DLによっては生じない)、また、UL行為者のインセンティブとの関係で検討したように、本犯たるUL行為を助長する性格も認め難い。

・このため、少なくとも盗品等関与罪とのアナロジー(=共犯的行為構成)による正当化はできない。

・では早期化構成はどうか。結論からいえば、限定的に正当化できる可能性がある。

・早期化構成による場合、DL行為は将来の違法なUL行為(「拡散」)のための準備行為であって、いわばUL行為の予備段階にある。

・財産犯で予備まで処罰するのは強盗罪のみである。強盗罪は、その過程で、その手段たる暴行・脅迫(とくに暴行)から人の生命・身体に対する危険が生ずる場合があり、そのために特に処罰の早期化が認められる。

・UL行為/DL行為に、生命・身体に対する類型的危険があるとはおよそ考えられない。

・このため、強盗罪と同じような意味で処罰の早期化を正当化することはできない。

・では、被害が深刻であること(報告書はこの点を強調する)を理由に早期介入を正当化できるか。

・仮に被害が深刻であったとしても、それだけで処罰の早期化を肯定することは困難。先日の3億6000万円窃盗や特殊詐欺のように、予備を処罰しない窃盗罪・詐欺罪等においても深刻な被害が発生する場面はある。それでもこれらの犯罪類型は一般的には処罰を予備段階までは早期化させていない。

・他方、特別法等においては、窃盗罪や詐欺罪の一部について、「形を変えた」早期化処罰がある。ピッキング用具所持を禁止しその違反を処罰するピッキング防止法や、振り込め詐欺等の振込先とするための口座開設について(振り込め詐欺による金員の詐取ではなく)口座開設時に詐欺罪が成立する(たとえば、通帳に対する1項詐欺。さらには、口座開設時の行為を一定の範囲で特別法上の犯罪とする)とする運用等がそれである。

・では、DL犯罪化はピッキング用具所持等と同様のロジックで正当化できるか。

・ピッキング用具は、ピッキングによる侵入盗にとって不可欠な道具。振り込め詐欺のための口座も同様。このため、これらの所持や開設を禁止すればピッキングや振り込め詐欺の抑止に繋がる、という機序がはっきりしている。

・これに対し、DL犯罪化がこれらと同様の意味で深刻な被害防止に直結するかは不明確な部分がある(スクリーンショットを処罰してはたして将来の違法なULが防止できるであろうか)。

 

 Ⅳ おわりに

一 立法評価枠組に照らして

  • 保護法益適格性  著作権者等のどのような権利・利益を保護しようとするのか
  • 禁止の有用性  法益保護に繋がる機序が不明
  • 代替手段の有無・有効性  UL者に対する責任追及可能性
  • 相当性  報告書の態度に異論があることを踏まえるべき

 ・報告書は、著作権者等のどのような権利・利益を保護しようとするのかにつき、明確に説明していない。罪質の理解は処罰範囲や要件設定の在り方に影響するため、明確化すべきである。また、当該権利・利益を具体的に措定した上で、当該権利・利益が刑罰を用いてまで保護すべきものであるかどうか、厳密に議論すべきである。

・禁止の有用性については、報告書上、DL犯罪化が法益保護に繋がる機序が不明であるという問題がある。この点を明瞭にする作業を通じ、処罰範囲を適切に絞り込むべきである。

・代替手段の有無・有効性については、UL行為者に対する責任追及可能性があること、すなわち、DL行為者を処罰するところまで一足飛びに進む必要性が乏しいことを踏まえるべきである。録音・録画のDL行為者を処罰した例がないことは、DL行為犯罪化範囲の拡大が(少なくとも現時点では)不要ではないかと思わせる事情である。

・相当性については、前述の通り、報告書の態度に異論があることを踏まえるべきである。この点は慎重に検討しなければ、当初案を巡って生じたような混乱が更に生ずることとなる。

 

二 具体的な要件設定等の在り方

  • DLを一定の範囲で犯罪化するとしても・DLを一定の範囲で犯罪化するとしても
    →少なくとも以下のような限定を付して初めて、真剣な検討に値する。
    • 「作品を一定のまとまりとしてダウンロードする場合」、「原作のまま」
    • 「権利者の利益を不当に害しないする場合」【 ※当日レジュメから修正】
    ※それにしてもいかなる意味でDL行為が経済的損害を生ぜしめるのか?
  • 主観的要件についても要検討
    • 当初案(前掲) 故意ある場合に限定のみ(同119条4項は過失犯処罰を否定するのみ) 
    • 目的要件:「拡散」目的でのDLに限定するのも一案 ←拡散による経済的損害防止
  • 法定刑:他の早期化類型と比較して重すぎるのではないか(録音・録画も)。
    • cf. 殺人予備(2年以下の懲役)、暴行(2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料)、強盗予備(2年以下の懲役)、現住建造物放火等予備(2年以下の懲役、情状により免除)

・「作品を一定のまとまりとしてダウンロードする場合」あるいは「原作のまま」要件および「権利者の利益を不当に害する場合」要件を付して初めて、保護に値する権利・利益の保護に有用な範囲に限定される。

・録音・録画について現行法はこのような要件を付さないが、映画・音楽は通常、「一定のまとまりとして」ULされている(あるいはそのような場合にはじめて、これをダウンロードする行為に当罰性がある)。したがって、上述のような要件を付加しても、現行法の趣旨に反しない。

・録音・録画についてもどうせ検挙していないのであって、上記のような限定を付したところで、法執行に際し現実に困ることはない。

・また、規範的な文言を用いることには批判もありうるが、「権利者の利益を不当に害しない場合」は除外する旨、規定するのも一案(文言としては「正当な理由がないのにダウンロードする」あるいは「不当にダウンロードする」あたりか)。なお、この点は、規定しなくても処罰に値するDL行為といえるかというかたちで、解釈上当然に導入されることになるであろう。

・それにしてもいかなる意味でDL行為が経済的損害を生ぜしめるのかはよく理解できないところもあり、もしDL犯罪化範囲を拡大するのであれば、この点についての整理をきちんとするべきである。

・主観的要件についても要検討。確定的故意まで要求するかについては結論を留保するが、少なくとも、報告書が「厳格な主観要件を課す」としたことと、与党に示された案との間には齟齬があることを確認すべき。

・与党に示された案では、4項で重過失による場合が除外されるのみ。この4項が存在することにより、3項における「知りながら」という文言は「故意に」と読まれ、未必の故意の場合も当然に含むと解釈されることとなりかねない。4項が設けられた趣旨は不明だが、当初の狙いと異なる意味を解釈上有することとになるのではないか。

・故意ある場合しか処罰すべきでないというのであれば、過失犯を処罰するのは例外であるという考え方(故意処罰の原則)に照らして、とくに「厳格な主観要件を課した」ことにはならない。きつく言えば「厳格な主観的要件を課す」とした報告書の書きぶりは、まやかしでは。 

・「拡散」目的でのDLに限定するのも一案。拡散目的があってはじめて、将来の違法なULのための準備行為としてのDLと評価できるため。

・法定刑について、他の早期化類型と比較して重すぎるのではないか要検討(録音・録画も)。他の早期化類型(たとえば、上掲のもの)と比較した場合、かなり重いことが一目瞭然。

 

三 その他

1 立法評価枠組の意義と限界

・立法評価枠組:立法評価を分析的に行うためのツール[である/にすぎない]
→開かれた議論が不可欠 

・立法評価枠組を構成する諸要素は、その有無や程度が計量的に測定できるものではない。諸要素は、その有無や程度は経験的に測定されることとならざるを得ない。民主的に政策決定される過程で正しく測定されたと看做すしかない。

・民主的決定の前提として、開かれた議論が不可欠。

 

2 シグナリングの弊害

・シグナリング:[実際には検挙しない/恣意的・断片的に検挙する]と表裏一体
・「[駐禁/スピード違反]を取られるのは運が悪いだけ」→法の感銘力への悪影響
→シグナリングを主たる目的とした立法は害が多く、好ましくない

・報告書は、映像・音楽につき検挙例がないとしつつ、それでも犯罪と宣言することに抑止効があるとするが、その存在が必ずしも明白でない上、シグナリングには弊害があることも考慮すべし。

・駐車禁止やスピード違反について過度に不合理な規制をして(たとえば法定速度を極めて低くする、駐車場のない街であらゆる道路を駐停車禁止に指定する等)、「それでも高速度運転は危ない/駐停車は迷惑・危険というメッセージを発することができる」と述べた場合を想像すれば理解できよう。不合理な規制は守られないということとなり、実際には検挙しないか、恣意的・断片的に検挙することとなってしまう。人々が、実際には取り締まらないから平気だよ、あるいは、取り締まられても運が悪かっただけだよと考えるようになれば、法の感銘力は大きく損なわれる。
・安易に、宣言すると抑止効があるからよいと言われても困る、というのが率直な感想。犯罪化するなら本気で取り締まるべきであるし、本気で取り締まってよいと考えられる行為のみを犯罪化するべき。

シンポジウム抄録:「刑事法研究者から見た海賊版サイト対策を巡る動き」(1/2)

○本エントリの性質

 本エントリは、2019年10月13日に日本学術会議法学委員会公開シンポジウム「著作権法上のダウンロード違法化に関する諸問題」 において亀井が行った報告の要点を、メモ書き形式で抄録するものです。より詳細な原稿は別にしかるべき媒体で公開する予定です。

 当日配布したレジュメはこちらに置いてあります(http://gk1024.jp/191013/)。あわせてご覧下さい。

 

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【目次】

 →「2/2」に続く

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以下抄録(カコミ内はレジュメ記載部分。レジュメ中の頁数は文化審議会著作権分科会報告書〔以下、単に報告書という場合がある〕の該当箇所を示す)。

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Ⅰ 検討対象

    • 検討対象:立法によらないブロッキング、ダウンロード(DL)犯罪化
    • 参照資料:
      • 文化審議会著作権分科会報告書(2019年2月)
      • 「自民党・公明党 条文審査資料(平成31年2月22日) 著作権法及びプログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律の一部を改正する法律案概要説明資料」
      • 「自民党・公明党 条文審査資料(平成31年2月22日) 著作権法及びプログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律の一部を改正する法律案 新旧対照表」
      • 「文化庁当初案の考え方に関する資料(侵害コンテンツのダウンロード違法化)」

・本報告の検討対象は、立法によらないブロッキングおよびダウンロード(以下、DL)犯罪化である。

・主として掲記の資料を参照しつつ検討する。

・この議論ではしばしば「刑事罰化」という表現が用いられるが、刑事法研究者としてより一般的と思われる「犯罪化」という表現を用いる。

 

Ⅱ ブロッキング

 

一 問題の構造

  • 立法によらないブロッキング/立法によるブロッキング(→本報告の検討対象外)

・DNSブロッキング(以下、ブロッキング)は立法によるそれと立法によらないそれで問題の構造を異にする。

・このうち立法によるブロッキングは本報告の検討対象外である。立法によるそれは、そのような立法が憲法上許されるかという問題であって、刑事法研究者としての守備範囲の外にあるためである。

・これに対し、立法によらないブロッキングは、このブロッキングを実施する際の通信事業者等の行為が通信の秘密侵害罪を構成することとなるところ、同罪を緊急避難構成で正当化できるかという問題であるから、刑事法研究者としての守備範囲内にある。

 

二 立法によらないブロッキングと緊急避難

  • 特に以下の要件が充足されるか疑問
    • 「やむを得ずにした行為」(補充性)
    • 「これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった」(害の権衡) 

・既に各方面で指摘されているところだが、立法によらないブロッキングを緊急避難構成で正当化しようとする際、補充性と害の権衡の要件を充たすか疑問。

・(少なくとも海賊版サイト対策としての)立法によらないブロッキングを緊急避難構成で正当化することは、困難である。

 

三 立法をスキップするエクスキューズとしての「緊急避難」?

1 日常用語としての「緊急避難」

  • 「立法を待っている暇がない」? ←→法律主義 

 ・では刑法上の概念としての緊急避難について、ごく一般的な理解に照らしてその要件が充足されるか検討し、充足されないことを明らかにした。

・しかし、立法によらないブロッキングの是非を巡る議論の嚆矢となった知財本部・犯罪対策閣僚会議のいう「緊急対策」は、刑法上の緊急避難構成をしようとしてたのではく、「立法を待っている暇がない」という緊急性を表現していたのかもしれない(いわば、日常用語としての「海賊版サイト対策を急がないと困るじゃないか」)。

・しかし、このような日常用語としての「緊急避難」による正当化にも疑問がある。ここでの問題は通信の秘密侵害が立法によらずに正当化されるかであるところ、海賊版サイト対策(すなわち財産的な利益の保護)についてまで立法によらなくてよいとしてしまえば、相当に広汎なケースについてまで、立法によらない通信の秘密侵害を認めることとならざるを得ず不当だからである(名誉毀損等にまでただちに広がりかねない。通信の秘密と他の権利・利益の調整は、立法の過程で民主的に決定されるべきであろう)。

2 板挟みにされる者の苦悩

政府「緊急方針」→通信事業者(/通信事業者内の担当者)←通信の秘密侵害による法的責任

・政府の緊急方針は、裁判所・捜査機関・(民事の原告となり得る)インターネットユーザーの行動や判断を制約・制約しない。

・このため、立法によらないブロッキングを通信事業者が行えば、通信事業者は、緊急方針と法的責任(民事・刑事)との間で板挟みにされる構造にあった。

・刑事法研究者としてというよりも、社会人のひとりとして、板挟みにされる者の苦悩を思わざるを得ない。

 

Ⅲ DL犯罪化範囲見直し

 

一 文化審議会著作権分科会報告書の概要――犯罪化との関係を中心に

・DL違法化/犯罪化範囲見直しについては、まず、報告書を犯罪化との関係を中心に概観する。

1 「被害実態及び措置の必要性について」(60頁〔民事含む〕)
・報告書は、被害状況等を指摘し、違法化・「刑事罰化」(犯罪化)の必要性を述べる。
2 「制度整備の際の留意点について」(78頁〔民事含む〕)

  • 「主観要件の取扱い」(78頁〔民事含む〕)
    • 「『違法だと当然に知っているべきだった』、『違法か適法か判断がつかなかった』等の場合に、ダウンロードが違法とされることのないよう、主観要件の規定の仕方を見直す(例:「事実を知りながら」には、重過失により知らなかった場合を含むものと解釈してはならない旨の解釈規定を置く)ことを含め、厳格な解釈・運用、ユーザーの不安解消のために必要な措置を検討すべき」
    • cf. 「……『違法だと当然に知っているべきだった』、『違法か適法か判断がつかなかった』等の場合には、ダウンロードは違法とならないよう要件が設定されることが適当であり、現行の『事実を知りながら』という要件の適否も含めて検討することが適当である。〔原文改行〕このような対応が行われることを前提にすると、ユーザーが違法にアップロードされた著作物だと確定的に知っている場合にのみ、ダウンロードが違法となる……」(66頁以下〔民事含む〕)

 ・報告書は、「主観要件の取扱い」につき、民事法上違法とする範囲の見直しをも議論の射程に入れつつ、重過失により知らなかった場合を除く、確定的に知っている場合にのみ違法となる等、述べる。

・過失による場合が除かれるのか、確定的故意がある場合に限定されるのかは、報告書の書きぶりからははっきりしない。

3 「刑事罰の取扱いについて(各論)」(79頁)

  • 録音・録画についての一部DL「刑罰化」 ←「一定の抑止効果」(79頁)   
  • 「刑事罰は……最も強力な制裁手段であり、……極めて慎重な配慮が求められる」(79頁)   
  • 要件
    • 主観面 「厳格な主観要件」(80頁) 
    • 客体 「有償で提供・提示されている著作物等のダウンロードに限定」(80頁)
    • 更なる限定を付すか「十分に留意」(80頁) 「『原作のまま』、『当該著作物の提供又は提示により著作権者が得ることが見込まれる利益が不当に害される場合』等の要件により対象行為が海賊版対策に必要な範囲に限定されることを確保しつつ、反復継続してなどの要件により悪質な行為に限定」
  • 法定刑 「2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金又はその併科」
  • 親告罪とする 

 ・「刑事罰の取扱い」について報告書は、「厳格な主観要件」を課すこと、客体を限定すること、さらなる限定付すか「十分に留意」することが指摘している。

 

二 自民党・公明党条文審査資料(前掲)における著作権法改正案(抄)

119条(1・2項略)
3   第30条第1項に定める私的使用の目的をもつて、著作物又は実演等(著作権又は著作隣接権の目的となつているものに限る。)であつて有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。)の著作権(第28条に規定する権利を除く。以下この条において同じ。)を侵害する自動公衆送信又は著作隣接権を侵害する送信可能化に係る自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきもの又は著作隣接権の侵害となるべき送信可能化に係るものを含む。)を受信して行うデジタル方式の複製(以下この条において「有償著作物等特定侵害複製」という。)を、自ら有償著作物等特定侵害複製であることを知りながら行つて著作権又は著作隣接権を侵害する行為を継続的に又は反復して行つた者は、2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
4   前項に規定する者には、有償著作物等特定侵害複製を、自ら有償著作物等特定侵害複製であることを重大な過失により知らないで行つて著作権又は著作隣接権を侵害する行為を継続的に又は反復して行つた者を含むものと解釈してはならない。

・今般のパブコメに際し公表された与党説明資料(前掲)によれば、DL犯罪化範囲見直しに関する部分は上掲のとおり。

・すなわち、有償で提供されている著作物等の、違法にULされたものに係る、自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の複製(DL)を、有償著作物等特定侵害複製であることを知りながら、継続的に又は反復して行った場合に処罰するものであり、4項で重大な過失による場合が除外されている。

 

三 検討

 

1 刑事立法評価枠組(試論)

  • 刑事立法評価の2段階構造
    • 憲法適合性
    • (憲法適合的であるもののうち)「よりよい」か――刑法上の諸原則等との適合性
      • 保護しようとする権利・利益の面―― 保護法益適格性/法益保護の必要性
      • 禁止されることとなる行為の面――禁止の有用性/代替手段の有無・有効性/禁止の相当性 

・あまりアトランダムに論じても精密な検討はできない。このため、刑事立法評価枠組を、さしあたり上掲のように設定する。

 ・まず、憲法適合的かどうかが問われる(憲法適合性)。当該措置に伴う制約が憲法に違反するものであれば、当該措置はその余の観点からの検討を経るまでもなく禁止される。

・さらに、当該立法がただちに憲法違反であるといえなくとも、刑法上の諸原則等に照らして、「よくない」立法である場合がある。

・後者(「よりよい」か)については、さらに、保護しようとする権利・利益にかかわる事情と、禁止されることとなる行為にかかわる事情に整理することができる(刑法が、一定の行為を禁止することにより、一定の権利・利益を保護しようとするものであるため)。

2 憲法適合性

cf. 録音・録画についてのDL違法化・犯罪化  ※ただし、その内容や立法過程に対する批判も

 ・ここではさしあたり、憲法適合性は充足されると考えておく(既に録音・録画についてはDL違法化/犯罪化が行われているため。また、憲法適合的であって、はじめて、刑事法研究者としてコメントすべきことが生ずるため)。

・ただ、録音・録画についてDL違法化/犯罪化した際の規制の在り方や議論の在り方に批判もあることは留意すべきである(守備範囲外だが、憲法適合性のレベルで議論する余地があるのかもしれない)。

3 保護しようとする権利・利益の面から

(1)保護法益適格性

・著作権者等の有する権利・利益
 ※その内実――どのような権利・利益につき、保護法益適格性を論ずるか
(a)「違法にアップロードされた著作物(著作権法がそのような形での情報流通を許容していないもの)から私的使用目的で便益を享受しようとするユーザーの行為」が「広く一般的に許容されるべき正当性があるか」(63頁)
(b)著作権法30条1項の趣旨:「著作権者への経済的打撃が少ないことなどに鑑みて規定された」(知財高判平成26年10月22日判時2246号92頁)(58頁)

 ・報告書は、著作権者等の有する権利・利益のうち、どのような権利・利益を保護法益と考えているのか、不明瞭。

・(a)の表現は報告書に繰り返し登場する。あるいはこのような観点から、保護法益の内実を定立しようとしているのかもしれない。これは、いわば、違法にアップロードされた著作物から便益を享受しようとしてケシカラン、という気持ちと言いかえることができようか。(零細)物書きのひとりとしては、たしかにケシカラン、とは思う。しかし、この説明は保護法益の内実の説明としてはあまりにも弱い。

・これに対し、(b)として掲げた記載の背景にある経済的利益は保護に値するといえよう。

(2)法益保護の必要性

※被害実態推計につき議論があることに留意

 ・報告書は、被害推計値を掲げ、経済的被害が深刻であることを強調する。

・もっとも、被害実態を推計する方法には批判があったことも想起すべきである。

・とはいえ、一定の被害が生じているであろうとは想像できる。

・法益保護の必要性は肯定できる可能性がある。

4 禁止されることとなる行為の面から
(1)禁止の有用性

  • DL犯罪化範囲見直しが著作権者等の権利・利益を保護する機序如何?  (四 補説も参照)
    • 「拡散」防止(62頁) 将来の違法ULを抑止
    • 違法UL者のインセンティブ減少(62頁注68)
  • 録音・録画の場合:犯罪と宣言することによる効果を指摘(79頁参照) 
    • ※平成25年度文化庁委託調査(新日本有限責任監査法人「改正著作権法の施行状況等に関する調査研究報告書」(2013年)) 
    • ※シグナリングとその弊害(→後述) 

・ある行為を法的に禁止しその違反に刑罰を科すためには、その行為を禁止すると法益保護に資するという関係が必要(そうでなければ、禁止しても意味がないし、禁止によって得られる利益もない)。

・DL違法化対象範囲見直しが、いかなる機序で著作権者の権利・利益(私見では経済的利益)に繋がるであろうか。

・報告書がこの点をどう考えているのかは必ずしも明確ではないが、2通りの機序が念頭に置かれているように思われる。

・その第一は、「拡散」防止。既にULしやすい状態になっているデータのDLを禁止すれば、将来の違法ULを抑止につながるというロジック自体は理解できる。

・ただ、これはかなりの処罰の前倒し(ULという行為からみると、それよりかなり早い段階を処罰することとなる)。あまりに幅広く処罰を早期化させることは正当化し難い。

・「機序」の第二は、違法UL者のインセンティブ現象。ただし、このインセンティブは主として広告収入と思われるところ、DLを禁止しても当該サイトの閲覧が禁止されない以上、広告収入減には繋がらず、インセンティブは減少しないように思われる。

・なお報告書は録音・録画について犯罪と宣言したことによる効果があったとするが、そこで用いられている調査の対象期間が短いほか、同時期に音楽について適法な配信を便利に利用できるようになったこと(たとえばiTunesの進化)が寄与している可能性もあり、効果があったとするのであればさらなる検討を要するであろう。

・また、この「宣言」(シグナリング)には弊害もあり(後述)、主としてシグナリング目的ですと高らかに謳われても困る。

 (2)代替手段の有無・有効性

  • 代替手段としてのUL行為処罰の存在
  • 無数に存在するDL行為者よりもUL行為者を処罰する方が根本的で有効 

 ・代替手段の有無・有効性も、立法評価に際し検討される。他のよりよい選択肢があるのであれば、そちらが採用されるべきだからである。

・ここでは、代替手段としてのUL行為処罰の存在や有効性が踏まえられるべきである。

・摘発が困難とされた「漫画村」についても――刑事事件としての帰趨は未だ途中の段階だが――さしあたり検挙にはたどり着いたことを想起すべき。

(3)禁止の相当性

「違法にアップロードされた著作物(著作権法がそのような形での情報流通を許容していないもの)から私的使用目的で便益を享受しようとするユーザーの行為は、広く一般的に許容されるべき正当性があるか否か疑義」(63頁)

・当該措置によって制約される権利・利益と当該措置によって保護される権利・利益の権衡が著しく欠けていないか(相当性)も問題となる。

・同報告書には上掲の表現が繰り返し登場する。

・もっとも、「当初案」についてスクリーンショット等を巡って批判が百出したように、 上記ユーザーの行為について報告書が「広く一般的に許容されるべき正当性があるか否か疑義」があるとしたことは、再度慎重な検討に付されるべきである。

・控えめに言っても、報告書は相当性について丁寧な検討をしていない。

 

(「2/2」につづく)

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覚書:「不正プログラム書き込み疑い補導」という記事について

【2019年3月8日:本件プログラムの動作につき、文末に追記しました】

クリックすると同じ画面が表示され、消えなくなる不正なプログラムのアドレスをインターネットの掲示板に書き込んだとして、13歳の女子中学生が兵庫県警に補導されました。

クリックすると、画面の真ん中に「何回閉じても無駄ですよ〜」という文字や、顔文字などが表示され続けるよう設定されている

不正プログラム書き込み疑い補導|NHK 兵庫県のニュース

 

 上記記事のみからはよく分からないが、他の記事やSNS上で散見されるところを総合すると、問題とされたサイトはJavaScriptを用いてポップアップ様の画面を表示させ、そこにある「閉じる」を押しても閉じることができない(「閉じる」と書かれているが、そこに閉じる機能は設定されていない)ということのようである【この点について、文末参照】。このようなサイトに設置されたプログラムが刑法168条の2にいう不正指令電磁的記録に該当するとされ、当該サイトのURLをインターネット上の掲示板に書き込む行為が不正指令電磁的記録供用未遂*1とされた、というのである。

www.sanspo.com

 

 技術的なことはその方面の方々に譲るとして、第一印象は、こんなの古典的なイタズラであって当罰性ないんじゃないかというものであり、また、いわゆるブラクラ(ブラウザ・クラッシャー。特定のサイトを開くと次々とブラウザが新規に立ち上げられ、コンピュータの動作速度が低下する等の災いが生ずる)ですらなく(ブラウザのタブを閉じれば表示は消えるし、タブを閉じる動作を困難にさせるような仕掛けもされていないようである)、この観点からも当罰性があるとは思えないというものであった。

 

 ただ、「当罰性」というのはマジックワードであって、直感的表現に過ぎない。そこで、もう少していねいに検討するならば、次のようなことになろう*2

 

  刑法168条の2は、以下のように規定する。

(不正指令電磁的記録作成等)
第百六十八条の二 正当な理由がないのに、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、次に掲げる電磁的記録その他の記録を作成し、又は提供した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
 一 人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録
 二 前号に掲げるもののほか、同号の不正な指令を記述した電磁的記録その他の記録
2 正当な理由がないのに、前項第一号に掲げる電磁的記録を人の電子計算機における実行の用に供した者も、同項と同様とする。
3 前項の罪の未遂は、罰する。

 この規定は、同法168条の3とともに平成23年に新設された規定であり、「電子計算機のプログラムに対する社会一般の信頼という社会的法益」を保護法益とする*3。コンピュータ・ウイルスが広く社会に被害を与えており、その蔓延が深刻な問題になっているという認識の下、新設されたとされる*4

 

 その成立要件は、以下のように整理できる。

  1. 正当な理由がないのに
  2. 人の電子計算機における実行の用に供する目的で
  3. 同条1項各号が規定する電磁的記録その他の記録(供用の場合は電磁的記録のみ)を
  4. 作成/提供/供用した

 4番目の要件のうち、本件で問題となったのは「供用」である。

 

 供用(同条2項)の客体となるのは、「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録」(同条1項1号)であり*5、本件でも特に重点的に論じられるべきは、問題となったサイトに設置されたプログラムが同条1項1号にいう電磁的記録に該当するか(上記3)、である。

 

 さて、では、当該プログラムはこれに該当するであろうか。同条1項1号にいう電磁的記録とは、「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録」である。本件で「電子計算機」、「電磁的記録」の要件を充たすことは明らかだが、「意図」、「不正」については疑義がある。

 

 まず、「意図」についてであるが、この意図は、PCやスマホの個別のユーザー(たとえば、このサイトを表示させられたスマホの持ち主)の認識を基準とするのではなく、社会一般の認識を基準とする。社会一般からみて、ある動作が「意図に沿うべき」/「意図に反する」ものであるかが問われるのである。ポップアップ広告が不正指令電磁的記録とされないのも、「通常、インターネットの利用に随伴するものであることに鑑みると、そのようなものとして一般的に認識すべきと考えられることから、『意図に反する動作』には当たらない」ためである*6

 

 本件サイトを表示しても、ブラウザが通常の操作を受け付けなくなるわけではないようである。このサイトを表示しても当該タブを個別に閉じることもブラウザごと終了させることもできるとすれば、電子計算機に通常期待される動作は妨げられていない。このため、問題の事案は、報道等でみる限りでは、「意図」の要件を充たすか疑わしい。「閉じる」を押しても閉じなければ、当該ユーザーの意図には反するが(だからこそイタズラとして成立するわけだが)、上述のように、「意図」の要件は、個別のユーザーの意図を問題としないのである。

 

 さらに、仮に「意図」の要件を充たすとしても、「不正な」指令を与える電磁的記録といえるかも問題である。「不正な」に該当するかどうかは、当該プログラムによる指令の機能を踏まえ、「社会的に許容し得るものであるか否かという観点から判断」される*7

 

 このような定義は抽象的であるが、本罪が成立するとされる典型例や、保護法益を勘案して、その内実をよりクリアにすることは可能であろう。

 

 「不正な」の要件も充たすものとしてしばしば掲げられるのは、ハードディスク内のファイルを全て消去するプログラムを「行政機関からの通知文書であるかのように装って、その旨の虚偽の説明を付すとともに、アイコンも偽装するなどして、事情を知らない第三者に電子メールで送り付け、その旨を誤信させて実行させ、ハードディスク内のファイルを全て消去させたというような場合」*8である。このような場合、社会生活上の活動が大きく阻害されるおそれがあり、本罪の保護法益(電子計算機のプログラムに対する社会一般の信頼)を害するため、「不正な」の要件を充たすと考えることも自然である。

 

 これに対し、本件では、当該サイトを開いたPCやスマートフォン内のデータが消去される等の損害は生じない。社会生活上の活動が阻害されるとはいえないし、保護法益に対する侵害があるともいえないであろう。このため、典型例や保護法益に照らして、「不正な」の要件を満たすかも疑わしい。

 

 このように考えれば、ブラウザ・クラッシャーですらない本件サイトのURLを書き込む行為を不正指令電磁的記録供用未遂とすることには疑問が残る。なにか表に現れない事情があるというのであれば、せめてその点を報道して頂きたいと思われてならない。 

 

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【2019年3月8日追記】

 問題のプログラムの動作について、以下のような報道に接した。

今回のリンク先のページは「ポップアップを繰り返し表示する」というもの。JavaScriptというWebアプリ向けのプログラミング言語で、ユーザーに気付きを促す「アラートダイアログ」の表示を、特に抜け出す条件を定めない繰り返し構文(いわゆる無限ループ)で命令していた。

headlines.yahoo.co.jp

 このため、本エントリ中、「『閉じる』を押しても閉じることができない(『閉じる』と書かれているが、そこに閉じる機能は設定されていない)」とした部分は不正確だったこととなる。

 もっとも、この点を訂正したとしても、法的評価に変更はない。本件プログラムがタブを閉じる、ブラウザを閉じるといった動作を妨げるものでない以上、「意図」「不正な」の要件を充たさないことに変わりはないからである。

*1:記事から不分明だが、URLを書き込む行為を対象としたので、未遂に止まると構成したのであろう。

*2:なお、ここでは、不正指令電磁的記録作成等罪の規定が曖昧で無効はないかという立法論的批判については触れない。立法論/憲法論に立ち入るまでもなく、現行法解釈として疑問があるからである。

*3:大塚仁ほか『大コンメンタール刑法〔第3版〕』(青林書院、2014年)〔吉田雅之〕341頁。

*4:同書340頁。

*5:同条2項の規定ぶりから明らかなように、同条1項2号が規定する電磁的記録その他の記録は、供用の客体ではない。

*6:吉田・前掲345頁以下。

*7:同書346頁。

*8:同書347頁。