読書感想文:ダニエル・J・ソロブ『プライバシーなんていらない!?』(2017年、勁草書房)

 組織犯罪処罰法改正関係の勉強で時間を取られ読みかけのままになっていたが、ようやっと以下の書籍を読み終えた。強く印象に残る部分が少なからずあったので、簡単に感想を記しておきたい。

 以下、まとまりがほとんどないが、書評ではなく読書感想文だから、と開き直っておく。

プライバシーなんていらない!?

プライバシーなんていらない!?

  • 作者: ダニエル・J.ソロブ,Daniel J. Solove,大島義則,松尾剛行,成原慧,赤坂亮太
  • 出版社/メーカー: 勁草書房
  • 発売日: 2017/04/28
  • メディア: 単行本
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 なお、著者であるダニエル・J・ソロブは著名なプライヴァシー法研究者である(ジョージタウン大学教授)。また、原著は Daniel J. Solove, Nothing to Hide: The False Tradeoff between Privacy and Security, 2011 であり、本書は、大島義則、松尾剛行、成原慧、赤坂亮太による翻訳である。f:id:gk1024:20170617021622j:image

 

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 本書において繰り返し述べられるのは、プライバシーと安全との関係が二者択一ではない、ということである。

 この主張は「第1章 はじめに」で以下のように示され、この後、折に触れ形を変え現れる。

 多くの人びとは、安全性の向上のためにプライバシーを差し出さなければならないと信じている。そしてこの論争において安全側に立つ人々は、このトレードオフを受け入れるよう推奨する強力な議論を行っている。

 ……しかし、プライバシーを保護しても安全保障対策にとって必ずしも致命的にはならない*1

  ソロブはこのように主張して、プライバシーと安全が「二者択一の命題であることが論争の前提とされている」が、「その枠組み作りそのものが誤ってなされている」とする*2

 第3章においても、このことは詳述される。ソロブは、「テロリストの攻撃から私を守ってくれるなら、私は喜んでプライバシーを諦める」(I'd gladly give up my privacy if it will keep me secure from a terrorist attack)との常套句を取り上げ、プライバシーが「武装解除*3」を要求するかのように理解されているが、そのような理解が「全か無かの誤謬*4」であることを指摘するのである。そこでは、911事件における安全対策の一つが飛行機のコックピットのドアをロックすることであって、プライバシーの放棄が安全性と必ずしも関係がないことが指摘される*5

 同種の論証は枚挙にいとまがないが、たとえば、第18章がビデオ監視の規律方法として「監視者を監視する」手法を提案する点*6、「データ・マイニングの熱烈な支持者ではない」としつつ「すべての政府によるデータ・マイニングを拒否するものでもない」としてデータ・マイニングが許容される条件を論ずる点*7が挙げられよう。

 このことは21章「結論」においても、以下のように確認される。

 権利・自由を政府利益と衝量する場合には、その衝量が適切に行われることが極めて重要である。安全とプライバシーはしばしば衝突するが、必ずしもゼロサムのトレードオフ関係であるとは限らない。プライバシーと安全を調和させる方法がある*8

 ソロブは、この調和のための指針を4点示した上で*9、以下のように結んでいる。簡明で力強くリズミカルな文章なので、ここでは原文を引用しておこう*10。 

        So let the debate begin anew, but let it be more productive this time. Let's finally make some headway. If we get rid of all the noise and confusion, we can focus on what works and what doesn't. We can come to meaningful compromises. We can protect privacy as well as have effective security.

 心から同意できる宣言である。"If we get rid of all the noise and confusion" には多くの思いが込められていると考えるのも、深読みしすぎではなかろう。

 

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 同書には、小説や映画がしばしば引用される。とりわけニヤリとさせられたのは、以下である。

 パーソナルデータの収集・使用により発生する問題を記述するために、多くの論者は、ジョージ・オーウェルの『1984年』に依拠したメタファーを用いる。……しかし、コンピュータのデータベースで収集されるデータの大半は……センシティブなものではない。……

 違うメタファーのほうが、よりよくその問題を捉えている。フランツ・カフカの『審判』である*11

 「1984」を引用するのは洋の東西を問わないようだが、いつもそれを引けばいいというわけではないよね*12、とニヤリ。私も同感、だからこそ某原稿では「1984」ではなく「マイノリティ・リポート」*13を引用したと思いつつ読み進めると本書にも「マイノリティ・リポート」(映画版)が出てきてまたニヤリ*14

 このほか、同書には、「反響を呼ぶ社交新聞*15」、「ビリー・バッド*16」、「華氏911*17」、「エネミー・オブ・アメリカ*18」、「タイタニック*19」も登場する。

 

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 本書は、プライバシー概念の多様性に起因する混乱に悩む学生にとっても有用であろう。

 たとえば、私が専門とする刑事法の領域では、近時、GPSを用いた捜査手法について注目すべき判断が最高裁によって為された*20。最高裁は、以下のように述べ、当該捜査手法を強制処分である――すなわち、刑事訴訟法上根拠となる規定がなければならず、かつ、令状によらなければ行えない処分である――と判示した。

……個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって、合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であるGPS捜査は、個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものとして、刑訴法上、特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たる……。

  すなわち、この事案で用いられたGPS端末は「個人のプライバシーの侵害を可能とする機器」であり、これを装着して「私的領域に侵入する捜査手法」は強制処分であるとされたのである。

 同判決以前は、GPS捜査と憲法・刑事訴訟法の関係については、議論が分かれていた。もし、このような捜査手法を尾行と変わらないと考えれば、プライバシー侵害の程度は小さいと考えることとなろう*21。尾行は公道上で行われている活動を捜査員が見るに過ぎないものであって、プライバシーへの侵害性は低い(から任意処分――刑事訴訟法上の根拠規定も令状も不要――である)、GPS捜査も同じこと、というように。

 他方、GPS端末を用いることで、現実には尾行では困難な情報の収集まで可能となると考えることもできる。たとえば被疑者の公道上での行動を1ヶ月にわたってすべて監視しようとする場合を考えると、尾行によってこれを行おうとすれば膨大な人員と予算を投入する必要があり現実には困難であるのに対し、GPS端末によってこれを行うことはマンパワーの観点からも予算の観点からも容易である。こう考えると、GPS捜査は、尾行と異なり、尾行よりも、プライバシーの侵害性が高いと評価すべきことになろう。

 さらに、GPS端末を利用して得られる情報は追尾される者の位置情報であるが、仮に「いまこの瞬間どこにいる」という位置情報それ自体はたいして価値のない情報だとしても、位置情報を大量に収集して分析すれば、その者の思想・信条・性癖等々が明らかになるかもしれない。この点を捉えてプライバシーへの侵害性が高いとする議論もある*22

 ここで問題とされているのは、GPS端末によって重大な権利侵害が生じているか否かであり*23、換言すれば、GPS捜査によりどのような侵害が生じていると考えるのかである。

 ここでは、プライバシーが侵害されたといえるのはいつどのような場合かが問題とされ、さて、はたしてプライバシーってなんだっけということが問題とされるのである。

 このようにプライバシーは議論の鍵となる概念だが、その内容が多様であるために、捉えどころがない部分がある。ソロブは、このようなプライバシー概念の多様性を解き明かし、従来の問いの立て方を変更すべきであると説く(12章)。

 このようなプライバシー概念の捉え直し自体が議論の対象となる(そしてさらに読者を悩ませるおそれがある)ことは否定しがたいが、本書における簡明な記述は、多様なプライバシーの内実を具体的に理解することに資するであろう。

 

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 本書における話の進め方にも感心させられる。

 たとえば、自身のブログに寄せられた、「やましいことは何もない論」(the nothing-to-hide argument; プライバシーを高唱する者にはやましいことがあるに違いない、とする議論)に対する「うまい返し方」を紹介する部分*24は、堅苦しい法律論に瑞々しさを与えることとなろう。

 アマゾンやグーグルで検索した際のURLにまつわる問題を取り上げる部分*25は、通信の内容そのものか付随的情報かという問題(同書は「内容」か「封筒」かとする)が遠い世界の問題ではないことを際立たせるであろう。

 3つのプロファイルを提示しプロファイリングの問題を指摘する部分*26は、そこで掲げられたプロファイルが著名事件(911事件、オクラホマ連邦ビル爆破事件、ユナボマー)における被疑者のものであるとすぐ種明かしされることにより、地に足の着いた議論の重要さを読者に思い起こさせるであろう。

 生体認証データ漏洩通知書*27も面白い。この架空の通知書は、プライバシーの重要性をしかめ面で論ずるよりもはるかに、生体認証に関する適切な法的アーキテクチャの大切さを理解させるであろう。

 同書においては、他にも、ブッシュ大統領による監視プログラムに関するコメント*28等、911事件をめぐる社会的な出来事が多く引用されており、米国における同事件の重みを考える材料となる。

 

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 本書は、「やましいことは何もない」論との関係で、バートウによる議論を引用し、批判する。ソロブの引用によれば、バートウは以下のように述べる。

 プライバシー問題は「単純な不快感を越えて、生きている人間すなわち生きている者の生命に対して否定的なインパクトを与え」なければならない*29

 ソロブは以下のように応じる。

 人々が抽象的な利害関係よりも、血や死に対してより強く反応するという点については、バートウはもちろん正しい。しかし、もしこれが問題を認識するための基準であるというのであれば、ほとんどのプライバシー問題は認識されないであろう。プライバシーはホラー映画ではない。多くのプライバシー問題は死体と結びつかず、触って分かるような害悪を探し求めることは多くのケースで難しい*30

 バートウのような論法はしばしば見られる。しかし、このような論法は、運動論としてすらも成功していないように思われる。ソロブの指摘によるなら、このような失敗は、問題を正しく認識し得ていないから、ということになるのであろう。

 

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 愛国者法に関する以下のような記述も刺激的である。

 愛国者法の成立は、しばしばプライバシー権を骨抜きにした転換点とみなされている。私は無数の人と愛国者法について話してきたが、彼らはいつも愛国者法がプライバシーを殺したと嘆いていた。彼らの見解はどうも、愛国者法以前には我々は政府による監視に対抗する強力なプライバシー権を有していたが、愛国者法がこれを骨抜きにしたというもののようである。

 しかし、これらの喧伝のすべては愛国者法そのものに注意を向け過ぎていて、法制度一般に対する関心の程度は不十分である*31

 問題を正しく捉え、正しく対応するためには、氷山の一角にのみ注目するのではなく、氷山全体を観察する必要がある。

 ソロブは、このことを、一般書としては詳細に過ぎると思われるほど丁寧に電子的監視関連法制全体を解説することで、明らかにしている。

 

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 大島義則による「訳者あとがき」は、ソロブによる他の著書を紹介する。ソロブの議論を概観する上で有用であり、また、同書をきっかけとして勉強を進めたいと思う者にとって読書ガイドとして有益である。

 このことも、あわせて、記しておきたい。

*1:同書2頁。

*2:同書2頁。

*3:同書37頁。

*4:同書38頁。

*5:同書38頁以下。

*6:同書202頁以下。

*7:同書220頁以下。

*8:同書232頁。

*9:同書233頁以下。ここでは敢えて引用しないので、是非、同書をお読み頂きたい。

*10:訳は同書235頁参照。

*11:同書29頁以下。

*12:「1984」は同書199頁にも登場し、「オーウェル流のディストピア」では問題が捉えきれないことが示される。

*13:フィリップ・K・ディックの小説。スピルバーグによって映画化された。

*14:同書228頁。

*15:同書24頁以下。

*16:同書63頁。

*17:同書173頁。

*18:同書196頁。

*19:同書224頁。こちらは映画ではなく現実のタイタニックと理解すべきかもしれないが。

*20:最決平成29年3月27日裁判所裁判所ウェブサイト。

*21:最高裁判決以前の下級審には、このような考え方を採ったものも現に存在した。

*22:モザイク理論と呼ばれる考え方。尾崎愛美「GPS監視と侵入法理・情報プライバシー」季刊刑事弁護89号(2017年)103頁以下参照。モザイク理論については批判的な見解も多く見られる。

*23:前掲・最高裁判決も「個人の意思を制圧して、憲法の保障する重要な法的利益を侵害するもの」であるか否かを問題とした。

*24:同書25頁。

*25:同書178頁以下。

*26:同書210頁以下。

*27:同書229頁。

*28:同書93頁。

*29:同書33頁。

*30:同書34頁。

*31:同書174頁。

覚書:組織犯罪処罰法改正法の成立を受けて

I はじめに

 本エントリは組織犯罪処罰法改正法の成立を受け、改正後の組織犯罪処罰法6条の2第1項の罪の解釈にかかる暫定的な覚書を、今後の議論の叩き台として急遽公開するものである。

 このような目的から、本エントリではなるべく逐条解説的に記述するよう試みたが、項目によっては問題点を指摘するに止まった部分もある。

 本エントリは、これに先行する以下の2つのエントリに最低限の直しを加え、まとめたものである。 

gk1024.hatenablog.com

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 なお、改正後の6条の2は、以下のようなものである。

(テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画)

6条の2 次の各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団(団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第3に掲げる罪を実行することにあるものをいう。次項において同じ。)の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を2人以上で計画した者は、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。

 一 別表第4に掲げる罪のうち、死刑又は無期若しくは長期10年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められているもの 5年以下の懲役又は禁錮

 二 別表第4に掲げる罪のうち、長期4年以上10年以下の懲役又は禁錮の刑が定められているもの 2年以下の懲役又は禁錮

2 前項各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団に不正権益を得させ、又はテロリズム集団その他の組織的犯罪集団の不正権益を維持し、若しくは拡大する目的で行われるものの遂行を2人以上で計画した者も、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、同項と同様とする。

3 別表第4に掲げる罪のうち告訴がなければ公訴を提起することができないものに係る前2項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

4 第1項及び第2項の罪に係る事件についての刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)第198条第1項の規定による取調べその他の捜査を行うに当たっては、その適正の確保に十分に配慮しなければならない。

 

II いわゆるテロ等準備罪の各成立要件

一 「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」

1 「団体」要件・「組織的犯罪集団」要件

 改正後の組織犯罪処罰法(以下、「新法」と記す場合がある)は、「組織的犯罪集団」とは「団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第3に掲げる罪を実行することにあるものをいう」とし、あわせて、同条各号の行為が「団体の活動として」行われることを要求する。

 ここでいう「団体」とは「共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織(指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体をいう。以下同じ。)により反復して行われるものをいう」である(同法2条1項)。

 同法2条1項の「団体」性を欠く人の結合体、および、同法6条1項の「組織的犯罪集団」性を欠く人の結合体は、本罪の「組織的犯罪集団」に該当しない。

 「団体」性を欠くものとして、次のような人の結合体が考えられる。

・「共同の目的」を欠く人の結合体*1

・「多数人」によらない人の結合体。

・「継続的」でない人の結合体*2

・「その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織により反復して行われ」ない人の結合体*3

 もともと(すなわち、今般の改正以前から)、組織犯罪処罰法が一定の組織的な犯罪について刑を加重する等したのは、「組織により活動を行う継続的結合体の性質に着目して*4」であるから、新法においても、「団体」要件はこの観点から限定的に解釈されなければならない。

 さらに、「組織的犯罪集団」性を欠くものとして、次のようなものが考えられる。

・「その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第3に掲げる罪を実行すること」にない人の結合体。

 テロ等準備罪は未遂や予備を処罰しない犯罪類型についても処罰時期を早期化するものであり、これらの犯罪類型においては、未遂・予備が処罰されないにもかかわらず、計画が処罰されるという「不均衡」をもたらす。このような「不均衡」を超克する理論的可能性があるとすれば、それは、「犯罪目的でのグループの存在は、直接予見される犯罪と、そうでない犯罪の双方に対する継続的な活動の中心を提供する」というテーゼを認めることにあるが(拙稿「共謀罪あるいは『テロ等組織犯罪準備罪』について」慶應法学37号(2017年)169頁)、この危険性を理由として最長で5年以下の懲役・禁錮といった重い刑罰を科すことを正当化するためには、当該グループの存在が有する危険性が一定以上高度であることが要求される。

 このため、「組織的犯罪集団」要件は「団体」要件よりも厳格に解されなければならず、組織犯罪処罰法にいう「団体」に該当する人の結合体であっても、直ちに「組織的犯罪集団」に該当すると解されてはならない。このことは、「団体」のうち「その結合関係の基礎としての共同の目的」要件を充たすもののみを「組織的犯罪集団」と規定している6条の2第1項の書きぶりから当然であるのみならず、「組織的犯罪集団」要件が処罰の早期化を基礎付けていることからも認められなければならない。

 このように考えるとき、「組織的犯罪集団」要件は、「団体」要件に「その結合関係の基礎としての共同の目的」要件による絞りを付加したのみのものと解されるべきではなく、「団体」のうち、特に処罰を早期化せしめるに相応しいものに限定されるべきである(このような限定は、「団体」要件の解釈も、6条の2においては、同法におけるその余の場合の「団体」要件解釈よりも厳格に行われるべきことを要求することとなろう)。

 

2 「結合関係の基礎として」

 新法は「団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が」一定の犯罪を実行することにあるものを「組織的犯罪集団」と定義する。

 ここでいう「基礎として」との文言も限定的に解されるべきであり、別表3の犯罪を実行する共同目的が他の目的と対等の重みで併存するにすぎない場合、他の目的の重みがこの目的の重みを凌駕する場合には「基礎として」に該当しないというべきである。

 このような限定を付すべき理由としては、「不均衡」に関してで述べたことが掲げられるほか、新法の文言が「団体のうち、その結合関係の基礎としての……」との規定することも指摘できよう。

 後者について若干敷衍する。

 前述のように、組織犯罪処罰法における「団体」とは「共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織(指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体をいう。以下同じ。)により反復して行われるもの」である(2条1項)。すなわち、「団体」とは、同法上、一定の条件を満たした「共同の目的を有する」人の結合体なのである。

 新法による「組織的犯罪集団」の定義は、このような「団体」概念を、一定の「共同の目的」が「結合関係の基礎」にあることを要求し限定しようとするものである。このため、「共同の目的を有する」にすぎない人の結合体(他の目的と併存して当該目的を有するにすぎない人の結合体)は「団体」には該当しても*5「組織的犯罪集団」には該当しないと解さねばならない。このように解さなければ、「結合関係の基礎」との文言は意味を失ってしまい文言解釈として不当である。

 

3 「その他の組織的犯罪集団」

 6条の2第1項は「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」と規定するから、「その他の組織的犯罪集団」との文言も無制限であると解されるべきでなく、テロリズム集団に準ずる集団に限定して解釈されなければならない。

 その根拠としては、上記のような規定ぶりのほか、(TOC条約の要求と異なり)審議過程において政府がテロ対策のための立法であると再三強調したことも指摘できよう。

 なお、組織犯罪処罰法はテロリズムについて定義規定を置かないが、たとえば特定秘密保護法12条2項1号は、「テロリズム(政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動)」と規定しており、参考になろう。

 

二 「団体の活動として」

 本罪は、「団体の活動として」一定の計画をしたことを要求する。

 組織犯罪処罰法3条1項は、「団体の活動」とは「団体の意思決定に基づく行為であって、その効果又はこれによる利益が当該団体に帰属するものをいう」と規定する。

 「団体の意思決定」とは、個々の構成員の意思を離れた団体としての意思決定をいう*6。「暴力団の組長やいわゆるワンマン的な立場にある会社社長による単独の決定が、団体の意思決定になることもあり得よう」とされるが、少なくとも、このような決定が「当該団体の意思決定手続の実情に照らしてこれによっている」ことが要求される*7。このため、このような意思決定を欠く場合、本罪が成立しないのは当然である。

 また、「その効果又はこれによる利益が当該団体に帰属する」ことが要求されるから、当該行為による利益が人の結合体の一部の構成員のみに帰属する場合は、本罪は成立しない*8

 なお、「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的」とするテロリズム集団においては、従来、組織犯罪処罰法において典型的とされた金員等の利益(テロリズム集団としての活動資金等)のほか、一定の主張を強要する、社会に不安・恐怖を与えるという「効果・利益」も形式的には観念できる。

 もっとも、これらの「効果・利益」が従来組織犯罪処罰法において観念されてきた「効果・利益」とは異質なものであることも否定し難いであろう。

 

三 「当該行為を実行するための組織により行われる」

  新法6条の2第1項は、「当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行」を計画することを要求する。

 この要件の解釈には、同法3条1項における「当該罪に当たる行為を実行するための組織により行われた」との文言の解釈が参考になる。

 これによれば、「当該罪に当たる行為を実行するための組織」とは、ある罪に該当する行為を実行することを目的としてなり立っている組織を意味し、典型的には、犯罪実行部隊としての組織がこれに該当する。また、「既存の組織であっても、それがある罪に該当する行為を実行する組織として転用された場合は、これに該当する」が、「会社としての、その業務遂行のための組織は存在するものの、未だ犯罪実行を目的とした結びつきがあるとはいえないような場合には、……『罪を実行するための組織』が存在するとはいえない」*9

 また、同法3条1項における「組織により行われた」とは「その組織に属する複数の自然人が、指揮命令関係に基づいて、それぞれあらかじめ定められた役割分担に従い、一体として行動することの一環として行われたことを意味する」*10

 同法3条1項と6条の2第1項は、前者が「行われた」こと、後者が「行われるものの遂行……を計画した」ことを要求する点で異なるが、その余の点では実質的に重なり合う。

 このため、6条の2第1項における「当該行為を実行するための組織」、「……組織により行われるものの遂行」も、同様に解されるべきである。

 

四 「2人以上で計画した者」

1 本罪の主体

 本罪の主体につき、新法は、「次の各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団(団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第3に掲げる罪を実行することにあるものをいう。次項において同じ。)の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を2人以上で計画した者」と規定する。

 すなわち、本罪の主体は、「〔一定の〕行為で、……組織的犯罪集団……の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるもの遂行」を「2人以上で計画した者」と規定されているのである。

 本罪の主体については、このような新法の規定ぶりからも、組織犯罪処罰法3条1項のこれまでの解釈*11からも組織的犯罪集団の構成員に限られない。

 

2 「計画した」 

 本罪の実行行為は、 2人以上で「計画した」ことである。

 「計画」の意義については、既存の犯罪類型における「陰謀」概念の解釈が参考になろう。

 たとえば、内乱陰謀罪における「陰謀」とは、「2人以上の者が、内乱の実行を具体的に計画して、合意すること」であり、「実行の細部にわたることを要しないが、抽象的、一般的な合意をするだけでは足りない」とされる*12

 本罪における「計画」も、これに倣い、抽象的・一般的な合意では足りないというべきである。

 また、破防法39条・40条の陰謀の意義について、東京地判昭和39年5月30日下刑集6巻5=6号694頁は、以下のように判示している。

 破防法第39条、第40条の殺人および騒擾の陰謀とは、2人以上のものが、これらの罪を実行する目的で、その実現の場所、時期、手段、方法等について具体的な内容をもつた合意に達し、かつこれにつき明白かつ、現在の危険が認められる場合をいうと解するが、明白かつ現在の危険を伴う陰謀とは、その目的とする犯罪が、すでに単なる研究討議の対象としての域を脱し、きわめて近い将来に実行に移され、または移されうるような緊迫した情況にあるときと解される*13

 同判決は、 破防法上の「陰謀」について、上述のような定義に該当することに加え、「明白かつ現在の危険」を要求することで、さらなる限定を試みている。このような解釈手法が本罪に妥当する可能性の有無も精査されなければならない。

 

五 「計画をした犯罪を実行するための準備行為」

 「準備行為」の意義について、新法は「その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたとき」と規定する。

 「資金又は物品の手配、関係場所の下見」は「その他の……準備行為」の例示であるから、「その他の……準備行為」とは準備行為一般ではなく、資金・物品の手配、関係場所の下見に準ずるものに限定されるべきである。

 また、「計画をした犯罪を実行するための」との限定が付されているから、およそ当該犯罪の実行に資することのない行為はここでいう「準備行為」には該当しない。

 刑法典において「準備」の文言を用いる犯罪類型としては、通貨偽造等準備罪(刑法153条)、支払用カード電磁的記録不正作出準備罪(163条の4)、凶器準備集合罪(208条の2)がある。

 このうち通貨偽造等準備罪における準備は条文上「器械又は原料を準備した」場合に限定され、また通貨偽造等準備罪における準備も条文上「〔163条の2第1項〕の電磁的記録を取得した」・「提供した」(163条の4第1項)、「保管した」(同条2項)、「器械又は原料を準備した」(同条3項)場合に限定されていることから、これらの犯罪類型においては「準備」概念についての十分な解釈論的な蓄積があるとまではいえない*14

 これに対し、凶器準備集合罪における準備とは、凶器を必要に応じて、いつでも当該加害目的を実現するために使用できる状態におくことをいうとされる*15

 本罪における「準備」は、処罰の過度の早期化および処罰範囲の曖昧化を防止しようとする役割が期待される概念であるから、凶器準備集合罪における議論を参考にしつつ、真に処罰に値する段階に至って初めて「準備」に該当すると解釈すべきである。

 

III 自首・中止

 新法6条の2第1項本文ただし書は、「実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。」と規定するのみであり、本罪に中止未遂を認める余地があるか否かにつき特段の規定を有していない。

 周知のように、(本罪ではなく)予備罪に中止未遂に関する刑法43条ただし書が適用されるかは争いがある。

 学説の多くは適用を肯定し、判例はこれを否定する(最大判昭和29年1月20日刑集8巻1号41頁。強盗予備事件につき「予備罪には中止未遂の観念を容れる余地のないもの」とした)。

 このような解釈は、(殺人予備罪のように)予備罪について(自首による減免ではなく)情状による刑の任意的免除を認める犯罪類型においては不都合が小さい。必要的でないという憾みは残るが、免除の余地があるため、犯罪を既遂に至らしめないという刑事政策的目標は、一定程度達成されるからである。

 しかし、本罪の規定ぶりを形式的に読めば、自首について必要的減免が認められるものの、それ以外の場合については減免の余地がないこととなる。

 本罪について自首以外の任意の中止が観念できるかも検討されねばならないが*16、もしこれが観念できるのであれば、刑事政策的観点から(すなわち、計画段階で任意に離脱しても減免を受けられないのであれば、未遂に至るまで関与して中止しようと行為者に考えさせることが妥当でないことから)、同罪にも刑法43条ただし書の適用を認めるべきである。

 強盗予備罪をめぐって、強盗の中止未遂で刑が免除されるべき場合は稀であること、刑が減軽されても強盗未遂罪の方が強盗予備罪よりも刑が重いこと(前者を減軽した場合、2年6月以上10年以下の懲役。後者は2年以下の懲役)から、不都合はないとする議論もある。

 もっとも、このような議論に対しては、まず予備罪の中止犯の問題一般について、免除される余地が(稀ではあれ)存在することを無視するものであるという反論が可能であろう。

 また、テロ等準備罪は、対象犯罪のうち法定刑が相対的に重いもの(6条の2第1項1号。死刑・無期・長期10年を超える)の計画について5年以下、相対的に軽いもの(同2号。長期4~10年)について2年以下の懲役・禁錮を規定するため、「対象犯罪の中止未遂を必要的に減軽した場合に比べテロ等準備罪が軽いから不都合はない」との関係は成り立たない(長期4年の罪について中止未遂として減軽すれば2年以下の罪となり、テロ等準備罪と処断刑の範囲が同じである)。

 このため、テロ等準備罪には中止未遂に関する刑法43条ただし書の適用を認めるべきである。

 

IV 予備罪・未遂罪・既遂罪との関係

一 予備罪との関係

  本罪にいう計画をした者の行為が、同時に実体犯罪についての予備罪の構成要件に該当する場合があり得る(たとえば、組織的殺人が計画され準備行為が行われた場合、本罪のほか、組織的殺人予備罪(組織犯罪処罰法6条1項1号)の要件を充足する事態が生じうる)。

 この場合、両者は併合罪と解されるべきではなく、より犯行が進展した段階である各対象犯罪の予備罪に本罪が吸収されると解するべきである。

 

二 未遂罪・既遂罪との関係

 本罪を犯した者が、さらに、対象犯罪に着手しあるいは対象犯罪を遂げた場合、本罪は、対象犯罪の予備罪・未遂罪・既遂罪に吸収されると解すべきである。

 米国におけるコンスピラシーは未遂罪・既遂罪に吸収されず、対象犯罪(米国法流には実体犯罪)が未遂・既遂に至ってもなお、コンスピラシーで処罰することもできるが(未遂・既遂と本罪がコンスピラシーが併存する)、このように解すべきでない。

 その理由として、以下を指摘できる。

 米国ではコンスピラシーにつき訴訟法上の様々な特則が認められるため(証拠法上の関連性が緩和される、伝聞法則が緩和される、等)、コンスピラシーを実体犯罪と別に訴追することを許容する(訴追者にとっての)「メリット」が存する。しかし、このような特則は本罪には認められないから(今般の改正が手続法上の手当てを行っていないため)、対象犯罪が未遂・既遂に至った後になお本罪で訴追すること*17を認めるべき手続法上の理由は存しない。

 また、米国におけるコンスピラシーは犯罪への関与者を処罰する機能を有するが、この機能は、わが国においては共謀共同正犯概念が担っている。このため、この機能を理由として本罪が対象犯罪の未遂・既遂と併存すべきだと解する必要性が存しない。

 さらに、本罪はその沿革に鑑みれば、(TOC条約が2つのオプションとして掲げた)参加罪型ではなく共謀罪型であって、当該組織の存在を理由に処罰する犯罪類型ではなく、処罰を早期化させる犯罪類型と考えられる。この観点からも、通常の早期化類型(未遂・予備)と同様に解すべきこととなる。

 

V 刑法総則の共犯規定適用の有無

 予備罪、準備罪等については、共犯規定が適用されるか否かをめぐり議論がある。

 すなわち、予備罪一般について共犯規定の適用があるか否か、また、(通貨偽造等準備罪のように)準備罪を特に置いた場合に(予備罪一般については共犯規定の適用を否定する立場からもなお)共犯規定の適用があるか否かが問題とされる。

 本罪においても同様の問題は生ずるため、検討を要する。

*1:「共同の目的」とは、「結合体の構成員が共通して有し、その達成又は保持のために構成員が結合している目的」をいう。三浦守ほか『組織的犯罪対策関連三法の解説』(2001年)68頁。群衆(共同の目的が欠け、構成員が相互に結合していない)は「団体」性を欠く。

*2:集会(共同の目的を有する多数人の集合体であるが一時的な集団に過ぎない)は「団体」性を欠く。三浦ほか・前掲書68頁。

*3:「観劇、旅行等を行うことを目的とするいわゆる同好会は、……構成員間に指揮命令関係や、あらかじめ定められた任務の分担がなく、組織による団体の活動が行われない」。三浦ほか・前掲書69頁。

*4:三浦ほか・前掲書70頁。

*5:説明の便宜のため簡潔に書いているが、同法2条1項が規定するその他の要件を充足する必要があるのは当然である。

*6:三浦ほか・前掲書87頁。

*7:三浦ほか・前掲書87頁。

*8:ただし、三浦ほか・前掲書87頁以下が、組織的な賭博場開帳等図利の事案で、一見収益が全て個人に帰属するように見えても、集約された利益が構成員らに分配される場合には「利益が団体に帰属したものと認められる場合もあろう」とすることには注意を要する。

*9:三浦ほか・前掲書88頁。

*10:三浦ほか・前掲書88頁。

*11:三浦ほか・前掲書86頁。

*12:大塚仁ほか『大コンメンタール刑法第3版第6巻(2015年)42頁〔拙稿〕参照。

*13:なお、同判決はこのような状況の存否につき、「陰謀の対象とされている犯罪の種類、性質、陰謀の内容の具体性の程度、陰謀の時期と計画実行の時期との関係、陰謀者の数と性格、その実行の決意の強弱、陰謀が行われる際の社会情勢等を考慮し、綜合的に判断して決するほかはない」と判示する。

*14:ただし、通貨偽造等準備罪について不完全かつ不十分な器械・原料の準備でも同罪が成立するとされている点には注意を要する(さしあたり、大塚仁ほか『大コンメンタール刑法第3版第8巻』(2014年)47頁〔江藤正也〕参照)。

*15:名古屋高金沢支判昭和36年4月18日高刑集14巻6号351頁、東京高判昭和39年1月27日判時373号47頁。

*16:計画段階まで関与した上で、実行の着手前に任意に組織犯罪集団から離脱した場合がこれに該たるであろうか。

*17:ただし、未遂結果・既遂結果の存在や因果関係につき立証上の不安があること等を理由とした一部起訴のために、本罪のみで起訴することは認められるであろう。

テロ等準備罪成立要件の個別的検討

I はじめに

 このエントリは、テロ等準備罪の成立要件について、組織犯罪処罰法に関する従来の解釈も踏まえつつ、(なるべく逐条解説的に)個別に検討することを目指す。

 この作業の狙いは、本罪のあり得る解釈を示すことにより、立法段階でなお議論すべき点を示そうとする点にある(遅ればせながら)。

 なお、在外研究中のため資料の入手に限界があり思わぬ間違いがありうること、法案審議の残り時間との関係で十分に検討し尽くせていない点があることは、ご海容頂きたい。

 また、同罪の「中止未遂」および予備・未遂・既遂の関係についても議論を尽くすべきと考えるが、これらの点については以下を参照されたい。

gk1024.hatenablog.com

 

II 法案の文言

  法案におけるテロ等準備罪関連部分は以下の通りである(同罪の没収等の特例にかかる組織犯罪処罰法2条改正関連部分を除く。また、別表は省略)。

 (テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画)

6条の2 次の各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団(団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第3に掲げる罪を実行することにあるものをいう。次項において同じ。)の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を2人以上で計画した者は、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。

  一 別表第4に掲げる罪のうち、死刑又は無期若しくは長期10年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められているもの 5年以下の懲役又は禁錮

  二 別表第4に掲げる罪のうち、長期4年以上10年以下の懲役又は禁錮の刑が定められているもの 2年以下の懲役又は禁錮

 2 前項各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団に不正権益を得させ、又はテロリズム集団その他の組織的犯罪集団の不正権益を維持し、若しくは拡大する目的で行われるものの遂行を2人以上で計画した者も、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、同項と同様とする。

 3 別表第4に掲げる罪のうち告訴がなければ公訴を提起することができないものに係る前2項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

 4 第1項及び第2項の罪に係る事件についての刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)第198条第1項の規定による取調べその他の捜査を行うに当たっては、その適正の確保に十分に配慮しなければならない。 

 

III 個別的検討

 

一 「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」

1 「団体」要件・「組織的犯罪集団」要件

 「組織犯罪集団」とは、法案では「団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第3に掲げる罪を実行することにあるものをいう」とされ、また、6条の2第1項柱書は、同条各号の行為が「団体の活動として」行われることを要求する。

 同法2条1項は組織犯罪処罰法にいう「団体」とは、「共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織(指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体をいう。以下同じ。)により反復して行われるものをいう」と規定する。

 このため、同法2条1項の「団体」性を欠く人の結合体、および、同法6条1項の「組織的犯罪集団」性を欠く人の結合体は、本条の「組織的犯罪集団」の要件を充たさない。

 「団体」性を欠くものとして、次のような人の結合体が考えられる。

【「団体」性を欠くもの】

・「共同の目的」を欠く人の結合体*1

・「多数人」によらない人の結合体。

・「継続的」でない人の結合体*2

・「その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織により反復して行われ」ない人の結合体*3

 もともと(すなわち、今般の改正以前から)、組織犯罪処罰法が一定の組織的な犯罪について刑を加重する等したのは、「組織により活動を行う継続的結合体の性質に着目して*4」であるから、今般の改正においても、「団体」要件は形式的に解されてはならない。

 さらに、「組織的犯罪集団」性を欠くものとして、次のようなものが考えられる。

【「組織的犯罪集団」性を欠くもの】

・「その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第3に掲げる罪を実行すること」にない人の結合体。

 テロ等準備罪は未遂や予備を処罰しない犯罪類型についても処罰時期を早期化するものであり、これらの犯罪類型においては、未遂・予備が処罰されないにもかかわらず、計画が処罰されるという「不均衡」をもたらす。このような「不均衡」を超克する理論的可能性があるとすれば、それは、「犯罪目的でのグループの存在は、直接予見される犯罪と、そうでない犯罪の双方に対する継続的な活動の中心を提供する」というテーゼを認めることにあるが*5、この危険性を理由として最長で5年以下の懲役・禁錮といった重い刑罰を科すことを正当化するためには、当該グループの存在が有する危険性が一定以上高度であることが要求される。

 このため、「組織的犯罪集団」要件は「団体」よりも厳格に解されなければならず、組織犯罪処罰法にいう「団体」に該当する人の結合体であっても、直ちに「組織的犯罪集団」に該当すると解されてはならない。このことは、「団体」のうち「その結合関係の基礎が……」という要件を充たすもののみを「組織的犯罪集団」と規定している6条の2第1項の書きぶりから当然であるのみならず、「組織的犯罪集団」要件が処罰の早期化を基礎付けていることからも認められなければならない。

 このように考えるとき、「組織的犯罪集団」要件は、「団体」要件に「その結合関係の基礎が……」という絞りを付加したものと解されるべきではなく、「団体」のうち、特に処罰を早期化せしめるに相応しいものに限定されるべきである(このような限定は、「団体」要件の解釈も、6条の2においては、同法におけるその余の場合の「団体」要件解釈よりも厳格に行われるべきことを要求する)。

 このような限定が付されることは法案審議の過程で十分に確認されるべきであると考える。

 

2 「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」

 6条の2第1項は「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」と規定するから、「その他の組織的犯罪集団」との文言も無制限であると解されるべきでなく、テロリズム*6集団に準ずる集団に限定して解釈されなければならない。

 その根拠としては、上記のような規定ぶりのほか、(TOC条約の要求と異なり)審議過程において政府がテロ対策のための立法であると再三強調したことも指摘できよう。

 「その他」の範囲は審議過程においてなお精査されるべきである。

 

二 「団体の活動として」

 法案は、「団体の活動」として一定の計画をしたことを要求する。

 組織犯罪処罰法3条1項は、「団体の活動」とは「団体の意思決定に基づく行為であって、その効果又はこれによる利益が当該団体に帰属するものをいう」と規定する。

 「団体の意思決定」とは、個々の構成員の意思を離れた団体としての意思決定をいう*7。「暴力団の組長やいわゆるワンマン的な立場にある会社社長による単独の決定が、団体の意思決定になることもあり得よう」とされるが、少なくとも、このような決定が「当該団体の意思決定手続の実情に照らしてこれによっている」ことが要求される*8。このため、このような意思決定を欠く場合、本罪が成立しないのは当然である。

 また、「その効果又はこれによる利益が当該団体に帰属する」ことが要求されるから、当該行為による利益が人の結合体の一部の構成員のみに帰属する場合は、本罪は成立しない*9

 以上のような場合に本罪が成立しないことは、審議過程において十分に確認される必要がある。

 なお、「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的」とするテロリズム集団においては、従来、組織犯罪処罰法において典型的とされた金員等の利益(テロリズム集団としての活動資金等)のほか、一定の主張を強要する、社会に不安・恐怖を与えるという「効果・利益」も形式的には観念できる。

 もっとも、これらの「効果・利益」が従来組織犯罪処罰法において観念されてきた「効果・利益」とは異質なものであることも否定し難いであろう。

 法案の審議過程においては、この「効果・利益」としていかなるものを観念しているのか、同条2項における「不正権益」との関係も整理した上で、精査されるべきである。

 

三 「当該行為を実行するための組織により行われる」

  6条の2第1項は、「当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行」を計画することを要求する。

 この要件の解釈には、同法3条1項における「当該罪に当たる行為を実行するための組織により行われた」との文言の解釈が参考になる。

 これによれば、「当該罪に当たる行為を実行するための組織」とは、ある罪に該当する行為を実行することを目的としてなり立っている組織を意味し、典型的には、犯罪実行部隊としての組織がこれに該当する。また、「既存の組織であっても、それがある罪に該当する行為を実行する組織として転用された場合は、これに該当する」が、「会社としての、その業務遂行のための組織は存在するものの、未だ犯罪実行を目的とした結びつきがあるとはいえないような場合には、……『罪を実行するための組織』が存在するとはいえない」*10

 また、同法3条1項における「組織により行われた」とは「その組織に属する複数の自然人が、指揮命令関係に基づいて、それぞれあらかじめ定められた役割分担に従い、一体として行動することの一環として行われたことを意味する」*11

 同法3条1項と6条の2第1項は、前者が「行われた」こと、後者が「行われるものの遂行……を計画した」ことを要求する点で異なるが、その余の点では実質的に重なり合う。

 このため、6条の2第1項における「当該行為を実行するための組織」、「……組織により行われるものの遂行」も、同様に解されるべきであり、参議院での審議に際し、このことを踏まえた検討が必要である。

 

IV まとめにかえて

 上述したところでは触れられなかったが、本罪の主体および準備行為の意義についても議論が必要である。

 本罪の主体については、法案の規定ぶりからも、組織犯罪処罰法3条1項のこれまでの解釈*12からも団体の構成員に限られないことが確認されるべきである。「一般人云々」といった議論を延々と繰り返すのではなく、主体が団体の構成員に限定されないことを政府は認めた上で、それでもなお本罪を創設するのか否かが正面から論じられるべきである。

 また、準備行為の意義について、法案が「その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたとき」と規定しているところ、とくに「資金又は物品の手配、関係場所の下見」との例示と「その他の……準備行為」の関係(すなわち、「その他の……準備行為」とは準備行為一般ではなく、資金・物品の手配、関係場所の下見に準ずるものであることを前提に、具体的にどのようなものが想定されるのか)は精査されるべきである。

*1:「共同の目的」とは、「結合体の構成員が共通して有し、その達成又は保持のために構成員が結合している目的」をいう。三浦守ほか『組織的犯罪対策関連三法の解説』(2001年)68頁。

*2:集会(共同の目的を有する多数人の集合体であるが一時的な集団に過ぎない)、群衆(共同の目的が欠け、構成員が相互に結合していない)は該当しない。三浦ほか・前掲書68頁。

*3:「観劇、旅行等を行うことを目的とするいわゆる同好会は、……構成員間に指揮命令関係や、あらかじめ定められた任務の分担がなく、組織による団体の活動が行われない」。三浦ほか・前掲書69頁。

*4:三浦ほか・前掲書70頁。

*5:拙稿「共謀罪あるいは『テロ等組織犯罪準備罪』について」慶應法学37号(2017年)169頁。

*6:特定秘密保護法12条2項1号は、「テロリズム(政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動)」と規定している。

*7:三浦ほか・前掲書87頁。

*8:三浦ほか・前掲書87頁。

*9:ただし、三浦ほか・前掲書87頁以下が、組織的な賭博場開帳等図利の事案で、一見収益が全て個人に帰属するように見えても、集約された利益が構成員らに分配される場合には「利益が団体に帰属したものと認められる場合もあろう」とすることには注意を要する。

*10:三浦ほか・前掲書88頁。

*11:三浦ほか・前掲書88頁。

*12:三浦ほか・前掲書86頁。