覚書:「共謀罪、要件変え新設案 『テロ等準備罪』で提案検討」

朝日新聞デジタルが2016年8月26日(JST)に「共謀罪、要件変え新設案 『テロ等準備罪』で提案検討」との記事を掲載しました。

digital.asahi.com

 

共謀罪の動きに関しては産経新聞が本年3月に記事を掲載したことがあり、これについて、覚書として以下のエントリを書いたことがあります。

gk1024.hatenablog.com

 

上記のエントリでは、以下の2点を指摘しました。

 

(1) overt actという概念では、アメリカ法の経験によれば、処罰範囲を限定することはできない。このため、(産経の記事における)「準備行為」は条文の書き方に工夫が必要である。

(2) 組織犯罪処罰法上の諸概念には解釈の積み重ねがあり、またその解釈には理由がある。このため、共謀罪(あるいはそれにかわる犯罪類型)を同法に新設することは、従来の解釈に引きずられた混乱を生ぜしめ得る。

 

今般の朝日新聞報道がいう「政府案」に直接触れたわけではありませんので、あくまでも同紙の報道によれば、ですが、新たな政府案では、これらの点につき、以下のような手当てがされているようです。

 

(1) 「組織的犯罪集団に係る実行準備行為を伴う犯罪遂行の計画罪」(テロ等組織犯罪準備罪)の成立に、「犯罪の実行のための資金または物品の取得その他の準備行為」を要求する。

(2) 従来の法案における「団体」にかえ、「組織的犯罪集団」(「目的が4年以上の懲役・禁錮の罪を実行することにある団体」)という文言を用いる。

 

これらの手当てにより、議論の局面は一段階前進しそうです。

 

すなわち、

 

(1) 同政府案がいう「準備行為」が十分かつ明確に処罰範囲を限定し得るか、とりわけ、「その他の準備行為」という書きぶりの是非が問題となる。「その他の」という書きぶりから、当然、「犯罪の実行のための資金または物品の取得」は例示に過ぎないこととなるが、このような書き方でよいか。

(2) 「目的が」という主観的な書きぶりで十分かつ明確に処罰範囲を限定し得るか。また、その認定は実際にはどのように行うことを想定しているのか。

 

ということが問題となるでしょう。 

 

なお、(1)については、「その他の」が無限定だからダメ、という議論では、少なくとも専門家による批判としては不十分でしょう。刑法典にも「その他の」という文言が多く使われていること、それらが無限定であるか否かの評価を踏まえた議論が必要になるでしょう。

 

 過去の法案では、犯罪を行うことで合意する「共謀」だけで罪に問われていた。今回は共謀という言葉を使わずに「2人以上で計画」と置き換えたうえで、計画した誰かが、「犯罪の実行のための資金または物品の取得その他の準備行為」を行うことを構成要件に加えた。武器調達のためにパンフレットを集めるなどの行為を想定している。

 

さらに、「共謀」にかえて「2人以上で計画」とした点も興味を惹かれるところです。アメリカ法においては、しばしば、共謀罪(criminal conspiracy)とは、「2名以上の者による、不法な行為、若しくは、不法な手段による合法な行為を為すための結合」と定義されますが、この書きぶりを思い出すのは、あるいはアメリカ法の議論に引きずられすぎかもしれません。むしろ、「共謀」という、論争誘発的かつ多義的(共謀共同正犯との関係では共謀は従来多義的に用いられてきました)な概念を捨て*1、「計画」というより客観的・外形的な動きを要求する文言を採用したと理解するべきかもしれません。

 

ざっと思いついたことを書き連ねたのみですし、専門家としては論文の形で検討すべきことがらですが、まずは覚書として。

*1:とはいえ、「共謀」という文言は、国家公務員法等の法令で従来から用いられてきたものではありますが。