テロ等準備罪成立要件の個別的検討

I はじめに

 このエントリは、テロ等準備罪の成立要件について、組織犯罪処罰法に関する従来の解釈も踏まえつつ、(なるべく逐条解説的に)個別に検討することを目指す。

 この作業の狙いは、本罪のあり得る解釈を示すことにより、立法段階でなお議論すべき点を示そうとする点にある(遅ればせながら)。

 なお、在外研究中のため資料の入手に限界があり思わぬ間違いがありうること、法案審議の残り時間との関係で十分に検討し尽くせていない点があることは、ご海容頂きたい。

 また、同罪の「中止未遂」および予備・未遂・既遂の関係についても議論を尽くすべきと考えるが、これらの点については以下を参照されたい。

gk1024.hatenablog.com

 

II 法案の文言

  法案におけるテロ等準備罪関連部分は以下の通りである(同罪の没収等の特例にかかる組織犯罪処罰法2条改正関連部分を除く。また、別表は省略)。

 (テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画)

6条の2 次の各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団(団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第3に掲げる罪を実行することにあるものをいう。次項において同じ。)の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を2人以上で計画した者は、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。

  一 別表第4に掲げる罪のうち、死刑又は無期若しくは長期10年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められているもの 5年以下の懲役又は禁錮

  二 別表第4に掲げる罪のうち、長期4年以上10年以下の懲役又は禁錮の刑が定められているもの 2年以下の懲役又は禁錮

 2 前項各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団に不正権益を得させ、又はテロリズム集団その他の組織的犯罪集団の不正権益を維持し、若しくは拡大する目的で行われるものの遂行を2人以上で計画した者も、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、同項と同様とする。

 3 別表第4に掲げる罪のうち告訴がなければ公訴を提起することができないものに係る前2項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。

 4 第1項及び第2項の罪に係る事件についての刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)第198条第1項の規定による取調べその他の捜査を行うに当たっては、その適正の確保に十分に配慮しなければならない。 

 

III 個別的検討

 

一 「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」

1 「団体」要件・「組織的犯罪集団」要件

 「組織犯罪集団」とは、法案では「団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第3に掲げる罪を実行することにあるものをいう」とされ、また、6条の2第1項柱書は、同条各号の行為が「団体の活動として」行われることを要求する。

 同法2条1項は組織犯罪処罰法にいう「団体」とは、「共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織(指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体をいう。以下同じ。)により反復して行われるものをいう」と規定する。

 このため、同法2条1項の「団体」性を欠く人の結合体、および、同法6条1項の「組織的犯罪集団」性を欠く人の結合体は、本条の「組織的犯罪集団」の要件を充たさない。

 「団体」性を欠くものとして、次のような人の結合体が考えられる。

【「団体」性を欠くもの】

・「共同の目的」を欠く人の結合体*1

・「多数人」によらない人の結合体。

・「継続的」でない人の結合体*2

・「その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織により反復して行われ」ない人の結合体*3

 もともと(すなわち、今般の改正以前から)、組織犯罪処罰法が一定の組織的な犯罪について刑を加重する等したのは、「組織により活動を行う継続的結合体の性質に着目して*4」であるから、今般の改正においても、「団体」要件は形式的に解されてはならない。

 さらに、「組織的犯罪集団」性を欠くものとして、次のようなものが考えられる。

【「組織的犯罪集団」性を欠くもの】

・「その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第3に掲げる罪を実行すること」にない人の結合体。

 テロ等準備罪は未遂や予備を処罰しない犯罪類型についても処罰時期を早期化するものであり、これらの犯罪類型においては、未遂・予備が処罰されないにもかかわらず、計画が処罰されるという「不均衡」をもたらす。このような「不均衡」を超克する理論的可能性があるとすれば、それは、「犯罪目的でのグループの存在は、直接予見される犯罪と、そうでない犯罪の双方に対する継続的な活動の中心を提供する」というテーゼを認めることにあるが*5、この危険性を理由として最長で5年以下の懲役・禁錮といった重い刑罰を科すことを正当化するためには、当該グループの存在が有する危険性が一定以上高度であることが要求される。

 このため、「組織的犯罪集団」要件は「団体」よりも厳格に解されなければならず、組織犯罪処罰法にいう「団体」に該当する人の結合体であっても、直ちに「組織的犯罪集団」に該当すると解されてはならない。このことは、「団体」のうち「その結合関係の基礎が……」という要件を充たすもののみを「組織的犯罪集団」と規定している6条の2第1項の書きぶりから当然であるのみならず、「組織的犯罪集団」要件が処罰の早期化を基礎付けていることからも認められなければならない。

 このように考えるとき、「組織的犯罪集団」要件は、「団体」要件に「その結合関係の基礎が……」という絞りを付加したものと解されるべきではなく、「団体」のうち、特に処罰を早期化せしめるに相応しいものに限定されるべきである(このような限定は、「団体」要件の解釈も、6条の2においては、同法におけるその余の場合の「団体」要件解釈よりも厳格に行われるべきことを要求する)。

 このような限定が付されることは法案審議の過程で十分に確認されるべきであると考える。

 

2 「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」

 6条の2第1項は「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団」と規定するから、「その他の組織的犯罪集団」との文言も無制限であると解されるべきでなく、テロリズム*6集団に準ずる集団に限定して解釈されなければならない。

 その根拠としては、上記のような規定ぶりのほか、(TOC条約の要求と異なり)審議過程において政府がテロ対策のための立法であると再三強調したことも指摘できよう。

 「その他」の範囲は審議過程においてなお精査されるべきである。

 

二 「団体の活動として」

 法案は、「団体の活動」として一定の計画をしたことを要求する。

 組織犯罪処罰法3条1項は、「団体の活動」とは「団体の意思決定に基づく行為であって、その効果又はこれによる利益が当該団体に帰属するものをいう」と規定する。

 「団体の意思決定」とは、個々の構成員の意思を離れた団体としての意思決定をいう*7。「暴力団の組長やいわゆるワンマン的な立場にある会社社長による単独の決定が、団体の意思決定になることもあり得よう」とされるが、少なくとも、このような決定が「当該団体の意思決定手続の実情に照らしてこれによっている」ことが要求される*8。このため、このような意思決定を欠く場合、本罪が成立しないのは当然である。

 また、「その効果又はこれによる利益が当該団体に帰属する」ことが要求されるから、当該行為による利益が人の結合体の一部の構成員のみに帰属する場合は、本罪は成立しない*9

 以上のような場合に本罪が成立しないことは、審議過程において十分に確認される必要がある。

 なお、「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的」とするテロリズム集団においては、従来、組織犯罪処罰法において典型的とされた金員等の利益(テロリズム集団としての活動資金等)のほか、一定の主張を強要する、社会に不安・恐怖を与えるという「効果・利益」も形式的には観念できる。

 もっとも、これらの「効果・利益」が従来組織犯罪処罰法において観念されてきた「効果・利益」とは異質なものであることも否定し難いであろう。

 法案の審議過程においては、この「効果・利益」としていかなるものを観念しているのか、同条2項における「不正権益」との関係も整理した上で、精査されるべきである。

 

三 「当該行為を実行するための組織により行われる」

  6条の2第1項は、「当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行」を計画することを要求する。

 この要件の解釈には、同法3条1項における「当該罪に当たる行為を実行するための組織により行われた」との文言の解釈が参考になる。

 これによれば、「当該罪に当たる行為を実行するための組織」とは、ある罪に該当する行為を実行することを目的としてなり立っている組織を意味し、典型的には、犯罪実行部隊としての組織がこれに該当する。また、「既存の組織であっても、それがある罪に該当する行為を実行する組織として転用された場合は、これに該当する」が、「会社としての、その業務遂行のための組織は存在するものの、未だ犯罪実行を目的とした結びつきがあるとはいえないような場合には、……『罪を実行するための組織』が存在するとはいえない」*10

 また、同法3条1項における「組織により行われた」とは「その組織に属する複数の自然人が、指揮命令関係に基づいて、それぞれあらかじめ定められた役割分担に従い、一体として行動することの一環として行われたことを意味する」*11

 同法3条1項と6条の2第1項は、前者が「行われた」こと、後者が「行われるものの遂行……を計画した」ことを要求する点で異なるが、その余の点では実質的に重なり合う。

 このため、6条の2第1項における「当該行為を実行するための組織」、「……組織により行われるものの遂行」も、同様に解されるべきであり、参議院での審議に際し、このことを踏まえた検討が必要である。

 

IV まとめにかえて

 上述したところでは触れられなかったが、本罪の主体および準備行為の意義についても議論が必要である。

 本罪の主体については、法案の規定ぶりからも、組織犯罪処罰法3条1項のこれまでの解釈*12からも団体の構成員に限られないことが確認されるべきである。「一般人云々」といった議論を延々と繰り返すのではなく、主体が団体の構成員に限定されないことを政府は認めた上で、それでもなお本罪を創設するのか否かが正面から論じられるべきである。

 また、準備行為の意義について、法案が「その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたとき」と規定しているところ、とくに「資金又は物品の手配、関係場所の下見」との例示と「その他の……準備行為」の関係(すなわち、「その他の……準備行為」とは準備行為一般ではなく、資金・物品の手配、関係場所の下見に準ずるものであることを前提に、具体的にどのようなものが想定されるのか)は精査されるべきである。

*1:「共同の目的」とは、「結合体の構成員が共通して有し、その達成又は保持のために構成員が結合している目的」をいう。三浦守ほか『組織的犯罪対策関連三法の解説』(2001年)68頁。

*2:集会(共同の目的を有する多数人の集合体であるが一時的な集団に過ぎない)、群衆(共同の目的が欠け、構成員が相互に結合していない)は該当しない。三浦ほか・前掲書68頁。

*3:「観劇、旅行等を行うことを目的とするいわゆる同好会は、……構成員間に指揮命令関係や、あらかじめ定められた任務の分担がなく、組織による団体の活動が行われない」。三浦ほか・前掲書69頁。

*4:三浦ほか・前掲書70頁。

*5:拙稿「共謀罪あるいは『テロ等組織犯罪準備罪』について」慶應法学37号(2017年)169頁。

*6:特定秘密保護法12条2項1号は、「テロリズム(政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動)」と規定している。

*7:三浦ほか・前掲書87頁。

*8:三浦ほか・前掲書87頁。

*9:ただし、三浦ほか・前掲書87頁以下が、組織的な賭博場開帳等図利の事案で、一見収益が全て個人に帰属するように見えても、集約された利益が構成員らに分配される場合には「利益が団体に帰属したものと認められる場合もあろう」とすることには注意を要する。

*10:三浦ほか・前掲書88頁。

*11:三浦ほか・前掲書88頁。

*12:三浦ほか・前掲書86頁。